好きにならなければ良かったのに
「これは本当に衣装ケースに入っていたの?」
「旦那様が箱から出すのを私は見てますし、ケースは後で処分するって旦那様がクローゼットの棚の上に置いていらっしゃいましたよ」
「そのケースを見せて」
「今はクローゼットの中には見当たりませんけど」
使用人達は衣装ケースが無くなっている事などどうでもいいようだ。美幸にとっては大事な物でも、使用人にとっては所詮は他人事なのだから。
「でも、昨夜の旦那様は素敵でしたよ。酔い潰れた奥様を抱き抱えてお部屋まで運ばれたんですよ」
使用人達の色めき立つ様子に、美幸は目を丸くした。まさか、幸司がそんなことをするのだろうかと。恋人の為になら三階の寝室まで頼まれなくても抱き上げて運ぶのだろう。けれど美幸には新婚旅行から戻った日でさえしてくれなかった。
まだ、何も知らずに幸せに満ちた花嫁が望んでも叶わなかった。
なのに、怒らせた筈の幸司に寝室まで運んで貰ったのが嘘のようで。使用人達が事実だと言うと、これは夢の中ではないのかと思うほどに起こり得ない行為に意識が遠くなりそうだった。
「奥様?! 大丈夫ですか?」
「今日はお休みになっては如何ですか?」
「そうですよ、旦那様が今日は奥様のお世話をしっかりするようにと仰られましたから」
取って付けたようなセリフに美幸は苦笑しそうになる。入社初日も気分が悪くなり会社で倒れそうになってしまった。けれど幸司は心配する様子はなく美幸を咎めることしかしなかった。
「少し休むわ」
折角袖を通したワンピース。だが、所詮はサイズ違いで自分のものではない。そんな服には興味はない。急いでワンピースを脱ぐとガウンを羽織った。
「自分の部屋へ戻るわ」
美幸が椅子から立ち上がろうとすると使用人達が皆して困った顔をして見合わせる。
「どうしたの?」
美幸の質問に少し困惑した顔をする使用人が重々しく口を開く。
「今日から此方が奥様のお部屋になります」
「何言ってるのよ。私の部屋なら」
「旦那様のご指示で最初に予定されていた通りに、奥様が使っていらっしゃった部屋は子ども部屋へ作り替えされる事になったんですよ」
幸司からは何も聞かされていない。美幸には相談の一つも無い。美幸は使用人の言葉が信じられなくて、思わず元の自分の部屋へと走った。