再会は、健康診断で。

湧き上がる欲望のままに西川の唇の味を味わっていた俺は、頬に受けた衝撃にはっとして唇を離した。


「いって」


熱をもって痛む頬を押さえる。ボロボロと涙をこぼす西川を見て、俺は血の気が引くのを感じる。ああ、俺……最低なことをした。


もう泣かせたくないって思っていたのに、本当になにやってんだ、俺。


我を忘れて職場で、しかも健診中にハグならまだしもキスしちゃうとか、西川が泣いてしまうのも当然だ。


「あ、ごめ……俺……」


慌てて泣いている西川に手を伸ばす。俺の手が肩に触れそうになる、と西川の身体がビクリと震えた。


「いや、触らないで」


泣きながら俺の手を振り払う西川に、自業自得なくせに傷ついてしまう。


どうしよう、もう西川にこんな顔させたくなかったのに。
今度会ったらちゃんと謝って、笑顔を見たいと思ってたのに、また泣かせてしまった。


「ごめん、西川……俺の話聞いて。お願い」


深い罪悪感を感じながら訴える俺に、西川は泣きながら首を横に振る。それを見て、絶望的な気分になる。


おめでたい俺は、これ以上嫌いになることはないだろうなんて、そんな甘い考えを持っていた。だけど、今度こそ本当に終わったかもしれない。


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