水泳のお時間<番外編>
「瀬戸くん、待ってっ…校庭から、見えちゃ…」

「そう?じゃあカーテンを閉めようか。それなら俺たちがここで何をしてるかなんて見えないし、分からないよ」


瀬戸…あいつ…


――今まであんな風に笑うやつだったか?


俺が知っているあいつは、

自分がどうふるまえば相手が喜ぶか、好きになるか

初めから全部心得、知り尽くしている。


一言で言うならしたたかな男。そういうやつだ。


そして何ひとつ欠点のない完璧に作られた笑顔が、俺は気に入らなかった。


表面は笑っているように見えるが、本心は全く笑っていない。

本音は何を考えているのか分からない、つけ入る隙がひとつもない。


そういうところが好かなかった。


それが、なんだ。

今教室の隅で女といちゃついている、あの瀬戸は


俺が今まで見たことがないような、

というより誰にも、一度すら見せたことのないような、あどけない、くだけた笑顔を向けている。


…あいつ、

ほんとにあの瀬戸か?

別人じゃないのか?
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