bajo la luz de la luna
 色とりどりのワインボトルの隙間に見えた、凄まじい生命力を持つという褐色の物体。船に積まれる段階で紛れ込んできたのであろうソイツは、何と箱から飛び出して広間を飛び回り始めた。

 ソニアが拒絶の声を上げ、グレイの背後に隠れる。ガルシアもグレイも、口には出さないが不快な表情だ。アタシが何も言わないのは、この物体が怖くないからではない。“あまりにも嫌いすぎて、言葉すら見つからない”のだ。



『……お嬢様、大丈夫ですか?』



 秘書の声が聞こえた瞬間、飛んでいた意識が戻った。アタシは左足の太股に手を伸ばし、取り出した相棒を床に止まったソイツへ向ける。部下達が呆気にとられているが構わない。短い破壊音の後、『修理班呼ばなきゃな……』というグレイの呟き声がした。



『……アタシ、この物体が世界で一番嫌いかもしれないわ。おぞましいじゃない。』

『そう言うあなたは残酷ですね。しかも、床に穴が空きました。』



 ハァ、と溜め息をついたガルシアが、『誰か呼んできます』と告げて部屋を出ていく。修理班には申し訳ないのだけど、苛々してしまったのだから仕方ない。間もなく、直し屋のパウラが駆け付けてくれた。
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