bajo la luz de la luna
『うん、半分スペイン人だけど。ここはスペインだから、今は日本人じゃなくてスペイン人だって答えた方が正しいわね。ねぇ、マスターに挨拶させてもらって良い?』

『ええ勿論!そっか……通りでお綺麗なんだわ……』



 リラはうっとりするような目でアタシを見つめる。そういうリラこそ美人だと思ったのだけど、裏のない素直な言葉に、アタシは急に胸の奥がむず痒くなった。

 “綺麗”とはよく言われる。だけど、この子のような澄んだ穢れのない目を見たのは今日でたったの二回目だ。いつもは男達の妙な視線と嫉妬に駆られた女達の視線くらいしか感じていない。まぁ、部下達の尊敬を含むキラキラした視線や、楽しそうに人をからかってくる婚約者の熱視線もあるのだけど。

 リラはしきりに『ずっとスペインに住んでるんですか?』、『何処かの財閥のお嬢様なんですよね?』などと話しかけてくる。どうやらアタシを気に入ってくれたらしい。彼女はアタシを快く厨房まで通してくれた。アタシはそこで、タオルで汗を拭う後ろ姿に声をかける。



「……マスター、アタシよ。未来。」



 自分でも驚くくらい優しい声が出た。でも、その驚きを顔には出さない。
< 8 / 268 >

この作品をシェア

pagetop