bajo la luz de la luna
 振り向いた彼は、パァッという効果音がしそうな程顔を輝かせた。生憎調理の真っ最中の彼に、アタシは自ら歩み寄る。



「おぉ、未来ちゃん!元気にしてたかい?いつも流暢にスペイン語を喋るから、日本語を忘れちゃったんじゃないかと思ってたよ!」

「やだなぁマスター、アタシ一応日本人よ?まぁ、物心ついた頃からスペインに居るけどね。」

「そうかそうか!しかし、また一段と色っぽくなっちまって!背も伸びたんじゃないか?」



 彼は奈良井悟(ならい さとる)さん。アタシの父が日本に赴いた時に仲良くなり、帰国する父を追っかけてスペインまでやってきたんだとか。

 彼が経営している“mirai”はここらで有名な喫茶店の一つ。スペイン料理と日本料理を上手く融合させたメニューは、たちまち人々を虜にしてしまった。そして、この店の名前は漢字にすると“未来”。いつだったかマスターが、アタシの名前から取ったんだと話してくれた。



「冗談上手いわね。色気も身長も変わってないわよ。176センチで止まってるわ。」



 アタシが言うとマスターは豪快に笑う。そしてリラの方を向くと、流暢なイタリア語で彼女と会話を始めた。
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