王太子殿下は囚われ姫を愛したくてたまらない


シオンさんが急に、「少し外に出てみようか」と言ってきたのは、翌日の午後だった。

午後の仕事を二時間ほど抜けたらしいシオンさんに連れられるまま出たのは王宮の中庭で……王宮がもうひとつ建てられるんじゃないかってほどの広さがあるそこには、たくさんの花が咲き誇っていた。

抜けるような青い空には白い綿みたいな雲がぽかぽかと浮いていて、穏やかな風にゆっくりと流れていく。

じっと眺めていると、雲は大きくなったり長くなったり、千切れて薄くなったりと、一秒ごとに形を変えていた。

こんなに広い世界を見たのは、生まれてから初めてで……あまりの感動に声を失い、呼吸が震えた。

壮大な世界にぽつんと立つ自分がおぼつかなく感じ、思わず一歩よろけてしまうと、隣にいたシオンさんが支えてくれる。

「大丈夫?」
「はい……すみません。あまりに……あまりに広くて、高くて美しくて、自分がどこにいるのかわからなくなっちゃいました」

塔から出てからここにくるまでは、こんな風に景色を眺める余裕はなかった。
それでも、馬車の中からは外の世界を見たけれど、四角い窓越しだったから。

枠のない大きく広い空間に圧倒され、驚くばかりだった。

塀の遥か向こうに見えるのは、山だろうか。
山の地面はどうなっているんだろう。ここから見える通り、緑一色なんだろうか。足で踏んだら、どんな感触がするんだろう。

希望にも似た疑問がどんどん浮かび上がり、視線を動かせない。

そんな私の手を、シオンさんがギュッと握った。

ようやく景色から視線を移すと、私を見下ろして嬉しそうな微笑みを浮かべるシオンさんが居て……外の光のもとで見ると、余計に綺麗だなと思った。


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