王太子殿下は囚われ姫を愛したくてたまらない
「迷子にならないように繋いでいようか。クレア、景色に夢中で転びそうだから」
否定はできずに黙ると、にこりと笑ったシオンさんがゆっくりと歩き出すから、私も半歩遅れて続く。
足元に視線と落とすと、そこは白やベージュ色のでこぼこしたタイルが敷かれて道のようになっている。
幅にして一メートルほどの道は縦横に何本も通っていて、庭をいくつもの大きな四角に区切っていた。
私が通っているところには、薄い紫色のかわいらしい花が咲いている。
鈴みたいな形をした小さな花がいくつもぶら下がっている様子に惹かれ、思わず足を止める。
「あの、これは……?」
本で見た気がするけれど、名前がわからない。
実際に見るのはもちろん初めてで……興味が止まらなくて気持ちがずっとわくわくしている状態で、こんなこと初めてだった。
進みたいのに、ひとつひとつの花もきちんと見たくて心が引きちぎれそうだ。
しゃがむと、シオンさんも同じようにしゃがんでくれた。
「これはスズランだっけな。確か、どっかの国では花嫁に贈るとか聞いた気がする」
「そうなんですか、スズラン……可愛い」
そっと手を伸ばし、小さな花を指先で触ってみる。
少し湿って感じる花びらの感触に、じわじわと嬉しさが湧きあがるのを感じた。
「これ、スズランってとってもいい香りがしますね! 花の形も可愛いです」
「この国の気候は、花にとっては育ちやすいらしくて色んな種類の花が咲いてる。育てるのが難しい花は温室にあるから、そこもそのうち見せるよ」
「本当ですか?!」
くるっと隣を見て言うと、シオンさんは面食らったみたいな顔をしたあと、手で口元を覆って目を逸らした。