王太子殿下は囚われ姫を愛したくてたまらない
「冷えてきたし、今日はもう部屋に戻ろうか――」
シオンさんがそう微笑んだと同時に、中庭に第三者の声が響いた。
「シオン様、大変です!」
振り向いて、声の主がジュリアさんだと気づく。
こちらに走り寄りながら、ジュリアさんが叫ぶように言う。
「城の外で暴動が起きてますっ。どうやらテネーブル王国からこちらに移動してきた平民たちのようで……クレア様がここにいるのが外に漏れ、それを聞きつけたようです……!」
「え……」
無意識に声をもらしたのは私だった。
今の言葉を頭のなかで理解しようとするのに、動揺してしまってきちんと考えられない。
一歩たじろいでしまったところで、シオンさんが私の肩を抱く手に力をこめ、ハッとする。
「で、程度は?」
私の肩を抱いたまま聞いたシオンさんに、ようやく目の前まできたジュリアさんが説明する。
「それほど多くはありません。でも、この中庭は普段から国民に解放していますし、もしも誰かが入り込んだ場合、ここは危険です。早くお部屋に」
「そうだな。……クレア? 今の話、聞いてた?」
私が呆然としていたからか、顔を覗きこむようにしてシオンさんが聞く。
心配が広がっている顔を見て……目を伏せた。
だって……この暴動は、私のせいだ……。
「はい……」
どうするべきだろう。どうすればいい?
緊張ばかりが襲ってきて呼吸が苦しいほどだった。
そんな私に、シオンさんが微笑む。
「クレア」
「え……あ、はい……」
呼ばれて見上げると、柔らかい表情のシオンさんが私を見ていた。
肩を抱かれている状態だから、シオンさんの顔が思っていた以上に至近距離にあって驚く。