吐息のかかる距離で愛をささやいて
「あなた達って、社内でのけっこう有名だったじゃない?」


「う、うん。」


いい意味ではないけど、有名だったとは思う。


「婚約破棄になった時、一応会社もどうするか迷ったらしいの。
 でもまぁ、まだ結婚してなかったし、プライベートなことだから関知しないように一度は決定したらしいだけど・・・。相手の女の子がほら、あることないこと言いふらしちゃったじゃない?」


そう、実は、私が婚約破棄した後はなかなか大変だった。健二の相手の女の子が、社内で、私と健二の婚約破棄について色々言ったのだ。


あの時は、本当に辛かった。たぶん、俊がそばにいなければ私は会社を辞めていた。


「で、その話を耳にした工藤部長が、激怒して、あんたの元婚約者を飛ばしたのよ。」



工藤部長とは、当時の私の上司だ。入社以来、お世話になったし、可愛がってもらっていた。
ちなみに、今は関西支部で統括部長をされている。


そんことがあったなんて知らなかった。


「今回だって、元婚約者、本社に帰ってくる話もあったのよ。」


「そうなの?!」


「うん。それも工藤部長がどうにかしちゃったらしいわ。」



どうにかしちゃったって・・・



「・・・知らなかった。」


「まぁ、わざわざ言うような方でもないわね。」



「そうね。」



涼子に話したことで、私はどこかすっきりとした気持ちになった。


知らなかった事実に驚いたけど、何だか少し気持ちが軽くなった。



「前から思ってたんだけど、夏帆はまじめで考え過ぎよ。」


「そうかな?そんなことないと思うんだけど。」


涼子の指摘はいまいちピンと来ない。



「とにかく、もっと自分の気持ちに素直になりなさい。」


そう言われて小さく頷いた。

< 26 / 27 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop