この恋を、忘れるしかなかった。
こうやって、生徒達と他愛ない話をしている時間も、大好きだ。
わたしに敬語を使わずに話してくるのも、悪い気はしないーーーわたし自身、高校生に戻った様な気分になれるし、ナメられているそれとは違い、彼女達からは親近感を持ってくれている事が伝わってくるから。

今のわたし、安藤梨花子は現在29歳、結婚して3年になる。
先に話した通り、専業主婦でもなければ子供もいない、そんな生活を送っているだけだった。
「美雪ね、今付き合ってる彼氏に、美雪が高校卒業したら結婚したいとか言われててー…。でも正直ピンとこないんだよね」
「美雪ちゃんの彼氏って、前に話してくれた社会人の?」
「そうそう。でも美雪まだやりたいこと色々あるしー」
「美雪は遊びたいだけでしょ(笑)?」
恵ちゃんが、横ヤリを入れる。
「悪い?だからリカちゃん先生に聞いてるの。楽しいことがいっぱいなら、結婚も悪くないかなって」
”楽しいこと”ーーーか。
「だけど美雪、彼氏のこと結婚したいほど好きかどうかもよくわかんないし」
そう言いながら、口を尖らせる美雪ちゃん。
「………」
わたしは静かに頬杖をつき、窓の外を眺めた……。
わたしの結婚は、お見合いみたいなものだったから。
「……ふふ」
「なぁに?黙ったり笑ったり、ヘンなリカちゃん先生」
恵ちゃんが、不思議そうにわたしの顔を覗き込んできた。
”みたい”ではない、お見合いだったな、完全に。
うちは教員の家系で、なかなか結婚しないわたしが父親から紹介された相手も、同じく教員の家系の人で。
その真面目で誠実そうな人柄と、周りがどんどん結婚していくーーーそんな理由で、わたしは今の夫との結婚を決めた。

「美雪ちゃんはまだ若いし、焦らなくてもいいんじゃない?それよりも、いつか本当に好きな人と結婚する事の方が大事だよ。それは今の彼氏かもしれないし、違うかもしれないし…」
「そうだよねー。今決める事じゃないよね」
うんうんと頷きながら、美雪ちゃんは天井を見上げていた。




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