この恋を、忘れるしかなかった。
落ち着け、落ち着けわたし。
そう唱えていると、どこからか声が聞こえた気がした。
「……?」
「先生は、オレのことどう思ってるの?」
でもそんなことを気にする余裕を、霧島くんが与えてはくれなかった。
「ど、どうって……」

「…くく……」

その声は、笑いをこらえている様に感じとれ、今度は確実に聞こえてきた。
その直後、霧島くんはふうっと息を吐いたのだった。
「あぁ~、オレもう無理。なぁ、もういい?」

「………」

今の今まで、わたしの顔を見ていた霧島くんは今、別の方を向いて話していた。
話している先は、美雪ちゃんでも恵ちゃんでもないーーー開いたままになっている、扉に向かってだった。
「…しょうがねぇなぁー」
と言って扉の陰から男子生徒が1人、
「リカちゃん先生へのドッキリ作戦でしたー!」
と更に1人、合わせて2人の男子生徒が姿を現した。
「…」
ドッキリ作戦……?
「あー…、ごめんなさい先生。ちょっとした罰ゲームだったんだ」
霧島くんの声に、少しの申し訳ない気持ちが混ざっていたように感じた。
「はぁ?タチ悪すぎだし。まぁ少しはおもしろかったけど」
美雪ちゃんは、怪訝そうな顔をしていた。
罰ゲーム…?
だからあんな歯の浮くようなセリフをわたしに…?
「…」
まだ少し、呆気にとられていたわたしだったが、さっきまでテンパっていた自分を思い出し、恥ずかしくなってきていた……。
「お…大人をからかわないの!」
「ごめんってリカちゃん先生!」
「大成功~♪響、行くぞ!」
後から現れた2人は反省する様子もなく、楽しそうに帰っていった。
「ごめんなさい先生。でも先生って素直な人なんだね!普通に騙されるんだもん」
「……!」
そう付け加えてから、霧島くんも帰っていった。
なんなのよ、みんなしてからかって……。


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