神様修行はじめます! 其の五
「ガアァァ――――!」


 セバスチャンさんのおかげで正気を取り戻した絹糸が、九尾のノドに思い切り牙を食い込ませた。


 そこから緑色の気味悪い液体がブシャッと噴き出して、絹糸の美しい体毛をマダラ模様に汚す。


 我が子を半殺しにされた恨み骨髄。狂気の宿った目を爛々と光らせ、口元からケダモノみたいな唸り声を上げてる絹糸は、まさに『魔獣』って感じ。


 ひえぇ、ぜったいに本気で怒らせちゃいけないタイプが、ここにも……。


―― ズプズプッ!

「!? き、絹糸!」


 引き気味に目の前の凄惨な光景を眺めていたあたしは、予想外の急展開に目を見張った。


 九尾の胸から槍のような鋭い骨が無数に飛び出して、絹糸の体を突き刺している。


 不意打ちを食らった絹糸は、剣山のような骨に襲われながら身を仰け反らせ、苦痛の悲鳴を上げた。


「グウゥゥ……!」

「絹糸――!」


 この釣り目野郎、こんな瀕死の状態のくせに、小生意気にも反撃してきやがった!


「チッ。やはりこいつも死なない古代種か。めんどくせえ」


 セバスチャンさんが舌打ちをしながら、素早く印を切った。


 新たに床から伸びてきた蔓が、九尾の骨にシュルシュルと巻き付き、絹糸の体から引き抜こうとする。


 あ、あたしも手伝わなきゃ!


「絹糸、待ってて! 今すぐ助ける!」

「いらぬ!」


 即答されて、走り出し始めていたあたしの足がピタリと止まった。


「これしきの攻撃、なんでもない! それよりもお前は我が子を頼む!」


 え? 子猫ちゃんを、あたしが?


 いや、そりゃ助けたい気持ちはエベレストのようにやまやまだけど、あたしじゃ子猫ちゃんを治癒できないよ!


 この場で治癒の術を使えるのは門川君だけ。でも彼はいま、とてもそれどころじゃ……。


―― キィィ……ン


 子猫ちゃんが横たわる床の周囲に、とつぜん純白の術陣が浮かび上がった。


 純度の高い透明な氷の光と、燃え盛る炎の朱色が、真っ白な光源にライトアップされているかのように幻想的な輝きを放つ。


 その強烈な癒しの力が子猫ちゃんの体をスッポリと包み込んだ。


 これ、門川君の治癒の術だ! なんで!?


 振り向けば、門川君が庭の龍たちに向き合ったまま、こっちに向かって片腕を伸ばしている。


 その手の指が簡易の印を結んでいるのを見て、たまげてしまった。


 またこの人は、召喚術と、攻撃術と、治癒術を同時に発動している!


 マジ人間じゃない。目の前に門川君の皮をかぶった妖怪変化がいるー!


 第六天魔王やら、魔獣やら、妖怪やら、ここってもうお化けの巣窟じゃんか。まともな人間、どこですか!?
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