神様修行はじめます! 其の五
 でもとりあえず、これで子猫ちゃんは助かる。


「ありがとう門川君!」


 安心して大声で叫んだけれど、門川君はこっちに背中を向けたまま、返事もせずに三匹の龍と対峙していた。


 三匹のうちの一匹は、空中で氷龍と激戦を繰り広げている。


 絡み合った二匹の龍の姿は猛々しくも荘厳で、なんだか由緒ある寺院の奉納画みたいだ。


 他の二匹は氷漬けにされたうえ、地面や屋敷の壁に氷の槍でブッスリと刺し貫かれてる。


 うわぉ、まるで昆虫採集の標本みたい。でもこの標本、まだ生きてるぞ。


 ビチビチと新鮮な伊勢海老みたいに蠢いているのが、生々しくて気持ち悪い。


「門川君、大丈夫!?」


 戦況が気になって声をかけたけれど、やっぱり彼はこっちを振り向かない。


 術の同時発動のために、全神経を集中しているんだろう。こんなときに横から話しかけられてムカついてるかもしんない。


 頑張って門川君! 心の中で精一杯、応援旗を振り回してるからね!


「子猫ちゃん! これでもう大丈夫……だ、よ……?」


 子猫ちゃんに声をかけたあたしは、すぐにその様子がおかしいことに気がついた。


 なんだか苦しそうに半目を開いて、ヒューヒューと細い息を吐きながら震えている。


 どうも楽になってる様子が見られない。なんで?


 急いで術陣の中に自分の顔を突っ込んでみて、すぐにその理由が分かった。


 治癒の威力が弱い。


 胴体真っぷたつってほどの瀕死状態に対して、治癒の力が格段に足りないんだ。


 さすがの門川君でも、手一杯の現状ではこれが限界なんだろう。最悪の状況は回避できているけど、これじゃ体の損傷の回復に時間がかかりすぎる。


 回復が間に合わなかったら、子猫ちゃんが死んでしまうかも!


「門川君! これじゃ子猫ちゃんが……!」


 門川君の方を向いて叫んだあたしは、そのまま顔面を硬直させて息をのんだ。


 ひときわデカイ炎の玉が、門川君を目がけて一直線!


 危ない門川君! 炎の砲丸が、あなたの後頭部を狙ってるー!
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