神様修行はじめます! 其の五
 子猫ちゃんだけは、きっと絹糸を置いては逝かない。


 いつかようやく時間の牢獄から解放されるとき、きっと傍らにいて、死にゆく絹糸を見送ってくれるはず。


 愛しい我が子に看取られて、置き去りにされ続けた生涯を終えることが、絹糸にとっての願いだったんだろう。


 どこまでも悲しい、ささやかな願い。


 なのに……その願いは……。


「我が……子よ……」


 苦悩の中でも尽きることなく願い続けた、切ない思い。


 千年の深い痛みと悲しみを癒し続け、救い続けてくれた小さな命が……


 今、あたしの体の下で、無情に冷たくなっている……。


「我が子よ……我が子よ……」


 身を切るような絹糸の嗚咽が、轟々と炎の燃え盛る空間に、場違いなほど静かに染み渡る。


 それと同時に、あたしの涙がボタボタと床へ落ちる音がした。


 無残に千切れ、血と臓物にまみれてしまった小さな体を自分の身で覆うようにして、あたしは激しく泣きむせた。


 子猫ちゃん。子猫ちゃん。


 子猫ちゃんが……死んだ……。


 初めて出会った日の、愛らしい姿が目に浮かぶ。


 真っ白な綿毛みたいな体をボールみたいに弾ませて、本当に嬉しそうに絹糸に駆け寄っていた。


 絹糸と子猫ちゃんが寄り添い、幸せそうに笑い合う姿が脳裏に甦る。


 特異な運命に翻弄される親子が、お互いを健気に支え合うあの光景は、もう二度と見ることができないんだ。


 我が子までも見送らなければならない絹糸の心を思い、あたしは泣くことしかできない。


 仲間たちもみんな声を殺して、この非情な現実を認めるしかない。


 あぁ……やっぱりあたしたちは、こんなにも無力でちっぽけだ。


 月に願いは、届かない。


 届かないんだ……。
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