君の中で世界は廻る〜俺様ドクターの唯一の憂い〜



「……………」


そのスーツケースの中にはぎっしりとバラの花が詰まっていた。
赤はもちろんピンクに黄色、何本かは紫色のバラもある。
きゆは、胸が詰まって、何も言葉が見つからなかった。
きゆの一番大好きな花、それはバラの花だったから。


「4か月近く遅れたけど、きゆ、お誕生日おめでとう…」


きゆは絶対に泣きたくなかった。
あの誕生日の夜の出来事は、大きなトラウマとなってきゆの心を苦しめていたから。


「あの日、渡せなかったからさ。

でも、よかった~~

このバラたちは、俺と一緒に、あの荒れ狂う海を渡ってきたんだ。
俺はすごい船酔いして、でも、花屋のお姉さんにスーツケースの空気を何度も入れ替えて下さいねって言われてたから、ゲーゲー吐きながら、それでも、きゆに喜んでほしかったからさ、何度も空気を入れ替えた」


きゆの目から何度も何度も涙が落ちた。
流人はきゆの隣に座り、きゆの肩を優しく抱き寄せる。


「俺は、こうやって、俺から離れたきゆの心をちょっとずつ取り戻すから…

覚悟しとけよ~~~」


流人はきゆの肩を抱いたままブルブル震わせて、きゆを笑わせた。


スーツケースに閉じ込められていたバラの花達は、たくさんの空気を浴びてますます美しく輝いてる。
4か月遅れの流人からの誕生日プレゼントは、海を越えて、今、やっと、きゆの元へ届いた。






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