君の中で世界は廻る〜俺様ドクターの唯一の憂い〜
その日の夜は、流人の歓迎会が予定されていた。
きゆは役場の人に、夕方には流人を役場の隣にある研修センターに連れてくるよう言われていたため、それまでの間に、流人が病院で寝泊まりできる最小限の物を買い揃えたり、忙しく時間を過ごした。
流人は病院の車を借りて、町の様子を散策に行った。
流人は実のところ、この島に赴任できたことを心から喜んでいた。
きゆに会えるのはもちろんだが、この島の気候や風土、田舎ならではの人間らしい暮らしに密かに憧れていた。
きゆを好きになったのも、きゆ自身からにじみ出てくる素朴さだったり、無垢な澄んだ心だったり、人情味あふれた柔らかい性格だったり、都会の便利な生活の中では中々培えない優しく豊かな人間性に、心底惚れた。
きゆから聞かされる田舎の話が、流人は大好きだった。
いつかは行ってみたい……
きゆの故郷は、流人にとってささやかな憧れの情景であり希望の一つだった。
きゆの生まれ育った島は、本当に小さな島だ。
役場の周りに小さな商店街あり、きっと、島の人達はここに来て日用品の買い物をする。
コンビニも、便利な量販店も、24時間営業のファミレスもない。
でも、美味しい空気と、澄み渡る青い空、濃い緑のざわめく木々がある。
流人はそれだけでよかった。
肩の力が抜け、最小限の情報に頭を切り替える。
きゆを連れて帰ることは当たり前のことで、でも、この一年、俺自身も楽しみたい…
流人は颯爽と車を走らせた。