君の中で世界は廻る〜俺様ドクターの唯一の憂い〜
きゆは流人の機嫌が悪い事に、明らかに気づいていた。
お酒には強い流人だが、飲みすぎるとどちらかといえば陽気になる。
でも、今の流人は、目が半分しか開いてない。
機嫌が悪くなれば、目を開けていることさえ億劫になるらしく、粘着質でそして戦闘モードの怪しげな目つきに変化する。
「池山先生は独身なんですよね?」
後部座席に座った瑛太は、いきなり場が読めない最悪な質問を流人に投げかけた。
「え? あ、はい」
流人は後ろに愛想を振りまくでもなく、そっけなくそう答えた。
「そっか…
あの、この島には若い人がとにかく少なくて、先生には島の行事とかに参加してもらう事が多くなると思いますが、その時はよろしくお願いしますね」
きゆはホッとした。
普通の当たり障りのない会話でこの時間を過ごしたかったから。
「あと、先生…
東京の病院ってやっぱりストレスとか嫌な事とかが多いんですかね?」
瑛太の声はバリトン歌手なみに通る声だ。
後部座席に寄りかかっていても、誰かの漫談が車の中に響き渡っていても、確実に流人達の耳に聞こえてきた。
「何でですか?」
流人はフロントガラスに見える暗闇の風景の一点を見つめながら、低い声でそう聞き返した。