君の中で世界は廻る〜俺様ドクターの唯一の憂い〜
きゆは先に瑛太を降ろし、そして病院へと車を走らせた。
「病院に泊まるんでよかったんだっけ?」
きゆが流人にそう問いかけても、流人は座席を倒し聞こえないふりをして車の天井を見ている。
「ねえ?」
流人は寝転んだまま、きゆの方に顔を向けた。
「きゆ、そんなに痩せたの?」
きゆはほとんど目が開いていない流人を見て、ため息をついた。
「そんなことないよ、ちょっとは痩せたかもしれないけど、もう元に戻ったから大丈夫」
流人はそれでも寝転んだまま、きゆをじっと見てる。
「東京の病院でなんか嫌なことがあった?」
「…………バカ」
さすがのきゆも気が重くなった。瑛太達が心配しているきゆの憂鬱の原因は、今ここで寝転がっている。
「あのマッチョはきゆの事が好きで、あのマッチョときゆを結びつけとようと、島の人達は密かに思ってる」
「そのマッチョって呼ぶのはやめてよ」
きゆはそう言いながら笑ってしまった。
流人はすぐにあだ名をつけたがる。前、勤めていた病院のスタッフにも裏の呼び名がたくさんあった。
「俺さ、久しぶりに超嫌な気分だった。
ここはきゆのホームグランドで、俺はよそ者で、俺がきゆを迎えに来たなんて知ったら、この島初の殺人事件になりかねない勢いじゃん?」