君の中で世界は廻る〜俺様ドクターの唯一の憂い〜



きゆはそっと流人の手を取り優しく握りしめた。


「流ちゃん、本当にありがとう。
本田さんは、きっと、流ちゃんの言葉で、すぐに良くなるし元気になる。

本当は、役場の人が、デイケアのサービスを受けるようにすすめてるんだけど、元気な上に頑固で中々行こうとしないみたい。
今度、診察する時、流ちゃんの方からなんとなくその話をしてもらえれば助かるんだけど」


流人は真っ直ぐに海を見ている。


「そうだな… 誰かの目が行き届く環境にしてあげなきゃ、もうかなりの高齢だもんな」


流人はこの島が大好きだ。
もし、自分に何のしがらみもなく自由な身であるならば、この島に留まることも考えただろう。
本田のおじいちゃんのように犬と二人ぼっちで暮らしていても、毎日この海とこの自然が、当たり前のように包んでくれるし癒してくれる。でも、確かに、きゆの言うように、たまにこの壮大な自然は大きな牙をむく時もあるけれど。


「流ちゃん、なんだか、流ちゃんには驚かされてばかり…
流ちゃんはこんな田舎でも、丁寧に一生懸命、患者さんに接してくれるし、なんだか東京にいる時の流ちゃんとは、また全然違う魅力にびっくりしてる」


流人はそれでも海を見つめたままだ。
穏やかな波が寄せては返す単純な流れの中で、流人はこの島に来た意味を考えていた。








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