君の中で世界は廻る〜俺様ドクターの唯一の憂い〜
「きゆ、俺はこの島が好きだ。
きゆが生まれたからとかそんなんじゃなくて、俺は、こういう自然の中で生きるってことに、きっと憧れてたんだ。
もし……」
もし、俺がこの島に留まりたいって言ったら?…
流人はそう言いかけたが、ギリギリのところで心の中に飲み込んだ。
また、きゆの事を苦しめるのは分かっている。
俺の親父とおふくろのために帰ることを願っているきゆに、この島で一緒にずっと暮らそうなんて言えるはずがない。
いや、今は言えない……
「もし?」
きゆは左頬にえくぼを浮かべそう聞いた。
「もし、俺がこの島に生まれてたら、きっと、きゆと幼なじみで、地元の大学の医学部を出て、この島の町医者になって、きゆは瑛太じゃなくて俺と結婚するんだ。
なんで、俺はこの島に生まれてこなかったんだろう……」
きゆは隣に座る流人をそっと抱きしめた。
「流ちゃん、ありがとう……
その気持ちだけで嬉しいよ…
この島を好きになってくれて、本当にありがとう」
波の音できゆの小さな声は聞き取れない。
夕暮れに染まる凪いだ海は本当に綺麗だった。
波の先に日の光が反射してキラキラ輝くその光景を、流人はきっと忘れないだろう。
きゆを愛するということは、きっとそういうことなんだ……
俺の心髄に沁みわたる一番素晴らしくて一番欲しいもの……