近すぎて
どのくらいの時間、そうしていたのかわからない。
点けっ放しのテレビからは、新しい情報を得ることはできなかった。

コルノの先が食い込んだ跡が残る手の平を開く。

不意にドアチャイムが鳴り、弾かれたようにその方向へ視線を送る。
深呼吸して早鐘を打つ胸をなだめつつ、ゆっくりと扉に向かった。

頼んでおいたルームサービスなどで何度か糠喜びをしているから、つい慎重になってしまう。

「……はい?」

恐る恐る開けたドアがガバッと大きく開かれ、扉に手をついていた私は勢いでつんのめる。

「はい、じゃないだろうが。不用心にもほどがある。ドアガードで確認してから開けろよ」

倒れかけた私の肩を受け止めたのは慎司の手だった。

「慎司?本当?」

「遅くなって悪かったな……って、え?どうしたっ!?」

足から力が抜けてその場にへたりそうになった私を、焦った慎司が寸前で抱きかかえる。その腕の力強さは本物だと実感して、さらに腰が砕けた。

「よかった。無事だった」

スーツの胸元を両手で握りしめ、ようやくそれだけを言葉にする。

「ん?よくわからないけど、とにかく中に入らないか?それとも、抱き上げて連れてってもらいたい?」

からかうような声音に飛び退き道を空けると、慎司はするりと部屋に入った。
まるで自分の家のような足取りで中に進んでいく。

「食ってないの?」

まったく手を付けていないバゲットサンドをみつけて、追いついた私を振り返った。
だって、とてもではないけれど、パリパリのフランスパンが喉を通るような気分じゃなかったんだから仕方ない。

だれのせいだと思ってるの?
軽く睨んでみせると、慎司はかけてあったラップをベリベリと取り始める。

「とりあえず食べよう。腹減った……」

力なく言い、残っていたシャンパンを手酌で注いで一気に飲み干す。ひと息ついてほっとしたような表情をみたら、なんだか私もお腹が空いてきた。

ちょっと時間が経っているのにまだ皮はパリッとしていて、挟んであるトマトや生ハムは瑞々しい。
軽食とは思えないボリュームに大満足して、私たちは深夜の食事を終えた。


















< 25 / 31 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop