近すぎて
この展開を予想していなかったわけじゃない。
いい年をした大人が、ホテルの一室でふたりきりになって愛の告白するのだから、むしろごく自然な流れだろう。

だから私だって、一応下着は上下揃えてそれなりに準備して今夜に臨んだ。
期待、というか、覚悟はしていたはずなのに。

新しい恋を始めるのがあまりにも久しぶりすぎて、展開の速さに少しばかり戸惑いがあった。
あのまま心地よい流れにのってしまえればよかったのに、我ながら面倒くさい女だと思う。

軽い自己嫌悪に陥りつつ広いバスルームに入った途端、与えられた猶予が僅かな時間だということはすっかり私の頭から抜け落ちていた。
だいたい、女子のお風呂がその時間で終わるはずがない。

前回涙を呑んで諦めた広いバスタブにお湯を張っている間に、花の香りがするアメニティを使って全身をくまなく洗い上げた。

たっぷりのお湯に肩まで浸り、甘い香りと白い湯気の中にいると、不思議なことに気持ちが落ち着いてくる。

慎司との距離を縮めたい。側に――ここにいて欲しいと望んだのは、他ならぬ私自身だった。

ぽかぽかと十分に温まったところでお風呂から上がり、髪を丁寧に乾かしてから、見苦しくない程度に薄化粧を施す。
バスローブとナイトウェアの二択に迫られ、結局一年前と同じナイトウェアを選んだ。

最後にもう一度鏡を確認してバスルームを出ると、ゆうに三十分は経っていた。

もしかして怒っているかな?
テレビの音声が聞こえる部屋へそろりそろりと戻る。
照明は最小限に落とされ、煌々と点いたテレビ画面では、なぜか懐かしの怪獣映画が流れていた。

「なんでこんなの観てるの?」

私の問いかけにも答えは返ってこない。
戦々恐々としてソファに座る慎司の元へ近寄ると、腕を組んだままの格好で眠っているようだった。

土日もない連日の激務と長距離運転で、さすがに疲れているのだろう。
ソファの背に脱ぎ捨てられていた上着とネクタイをクローゼットにしまい、丸められたままの毛布を広げてかける。

ベッドまで運ぶのは無理だけど、風邪をひいたりしないだろうか。
やっぱり起こしたほうがいいかと覗き込んだ、穏やかな寝顔にあっさり断念した。
そういえば、慎司が眠っているところって初めて見たかも。

小学校のキャンプで、クラスメイトに見られた寝顔をからかわれたことがトラウマになって以来、自宅以外で寝るときは、誰よりも遅く寝て一番に起きる癖がついしまっている。
それなのに、大学時代にしていたサークルの映画鑑賞会でも慎司はいつも最後まで起きているから、ふたりで根比べみたいになっていたっけ。

彼の隣にそっと座って、一緒の毛布にくるまる。
肩を寄せたら、こてんと慎司の頭がもたれかかってきた。

たぶん明日の朝には身体中が痛くなるような予感がするけれど、規則正しい寝息と寄せられる重みと体温が心地よくて、いつしか私もそのまま寝入ってしまっていた。



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