副社長とふたり暮らし=愛育される日々
抱きしめられたのだとすぐに認識したものの、脳が混乱する。

え、あれ、副社長怒っていたんじゃ……ていうか、また抱きしめてくるってどういうこと!?

軽くパニックに陥り、心拍数もどんどん上がっていく私に、さっきとは違う落ち着いた声が囁く。


「……悪い、嫌な思いさせて」


謝ってくれたことで、重りが取り除かれたように、心が少し軽くなる。ドキドキは止まないけれど。


「お前がほかの男とふたりでいるってだけでイラついてたのに、あんなに密着してるとこまで見たら黙ってられなかった」


…………え?

不機嫌の原因を聞いて、初めて私の中にあるひとつの可能性が浮かぶ。


「あの場ですぐにキスして、お前の頭の中を俺でいっぱいにしてやりたかったくらいだ。昨日みたいに」


耳を疑うようなひと言に、思わず顔を上げると、余裕がなさそうな困った笑みをわずかに浮かべる彼がいて、胸がきゅうっと締めつけられる。

昨日のキスも、ただのおまじないではなかったということ?

ここまで言われたら、信じがたいけれど恋愛超初心者の私でもさすがに気がつく。


「そ、それって……」


上ずりそうな声でぽつりとこぼした直後、今の雰囲気には不釣り合いな音が鳴り出した。

私のコートのポケットから聞こえるそれは、スマホが着信を知らせる音。おかげで、一気に緊張感が薄れる。

誰だ、このタイミングで電話をかけてくる輩はー!

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