副社長とふたり暮らし=愛育される日々
電話が気になりつつも、今出ていいものか迷っていると、副社長は私からスッと腕を離す。

“どうぞ”と手で合図され、軽く頭を下げてスマホを取り出した。

あぁ、なんだかすごくいいところで寸止めされてしまった……。けど、これでよかったのかも。あのままじゃ心臓もたなかったかもしれないし。

さりげなく深呼吸しながらスマホの画面を見た私は、ぱっと目を開く。


「お兄ちゃんだ」


ピクリと反応を示した副社長に見られつつ電話に出ると、いつにも増して上機嫌な声が耳に飛び込んできた。


『瑞香、今日はビッグニュースだぞ! なんと……兄ちゃん、予定より早く帰ってくることができました!』

「……えぇっ!?」


思ってもみなかった報告に驚き、すっとんきょうな声を上げてしまった。副社長も私に注目している。


「うそ……本当に帰ってきたの!?」

『ホント。これから家に向かうから待ってろよ』


本当に帰ってきたんだ……やっとお兄ちゃんに会えるんだ!

そう実感すると、急激に感動が湧き上がってくる。けれど、同時に大変なことに気づく。

私、今家にいないじゃない! お兄ちゃんがどこにいるかにもよるけど、私のほうが先に帰れるかどうか……。

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