副社長とふたり暮らし=愛育される日々
「あぁーせっかく手間かけて作ったコロッケが……!」


慌てて油から上げるけれど、もう遅い。あきらかに揚げすぎのそれを見て落胆した。

朔也さんはクスクスと笑いながらコートを脱いでいる。どうやら帰ってきたばかりらしい。


「声かけても反応ないから、どうしたのかと思った」

「すみません、ぼーっとしてて帰ったのも気づきませんでした……。朔也さんのはちゃんと揚げますからね」


焦げたやつは自分用にしようと思い、今度は失敗しないようにと油の温度を調整する。

そんな私の横で、朔也さんはまだ熱々のコロッケをひとつつまみ、ひと口かじった。もぐもぐと食べながら、彼はうんと頷く。


「香ばしいけど、普通に食えるぞ。ほら」


“あーん”というように、かじりかけのそれを口のそばに持ってこられて、少しドキッとする。けど、反射的に口を開けてしまった。

はふはふしながら食べると、衣がザクザクしてるけど、まぁ食べられないことはない。タネの味はいいし。


「うん、香ばしい」


そう言うと、朔也さんは優しく微笑んだ。その笑みを見るだけで、私の沈んでいた心がちょっぴり浮上してくる。

朔也さんと一緒に暮らし始めてから、いろんな気持ちを感じているなと、ふと思う。

ドキドキしたり、穏やかになったり、もやもやしたり。彼がいなければ、こんな感情の波はきっと経験できなかった。

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