副社長とふたり暮らし=愛育される日々
悲劇のヒロインよろしく、顔を伏せておいおいと泣く私に、七恵は苦笑して『ごめんごめん』と軽く謝る。


『でもほんと、副社長ならなんとかしてくれると思うけどね。瑞香にセレブ気分を味わわせてくれて、何もせず一晩泊めるほど懐の広い人なんだから』


……それは、私も思う。昨日のような扱いをしてくれる人なら、大抵のことは手助けしてくれるんじゃないかって。

でも、だからこそ、もう甘えることはできないと言うか。私は何も返せないのに、これ以上借りを作ってしまったら、バチが当たりそうでちょっと怖い。

黙りこくっていると、電話の向こうで七恵を呼ぶ誰かの声が微かに聞こえてくる。それに返事をした彼女は、少し残念そうに言う。


『ごめん、呼ばれちゃった』

「もしかして、今日仕事?」

『そー撮影入っちゃって。もっと詳しく聞きたかったんだけど、また今度ゆっくり』


七恵も日曜なのに仕事か。皆大変だなと思いながら、年末年始の休み中に都合が合えばランチにでも行こう、と約束して電話を切った。

スマホの画面をスクロールして、なんとなく“御影朔也”の名前を見つめる。

『俺にできることならなんでもしてやる』と言ってくれていたけど……。


「……とりあえず安い家電を探してみるか」


ネットで探せば、私にも買える安いものがあるかもしれない。なかったらまたその時考えよう。

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