副社長とふたり暮らし=愛育される日々
なんだか気恥ずかしくて縮こまる私を見た明智さんは、はぁ、とため息を吐き出す。


「……猫なら、僕があげた“もふにゃん”があるっていうのに」


ボソッと呟かれたひと言に、私はピクリと反応してしまう。

“もふにゃん”って、明智さんの口から出ると違和感ありまくりだけど、私の中でイメージが一致するものがある。


「それってもしかして、副社長の部屋に置いてある猫のぬいぐるみのことですか?」


気になって問いかけると、キラリと輝く眼鏡の奥の鋭い瞳と、ミラー越しに目が合った。

それがすごく威圧的に感じて、口を挟んではいけなかったかと思い、ぎくりとしつつ謝る。


「あ……すみません! あれすごく可愛いいなと思ってたので」

「当然です。副社長のために私が選んだんですから」

「えっ、そうなんですか!?」


眼鏡を中指で押し上げる明智さんから口にされた意外なひと言に、私は目を丸くする。あんなに可愛いものが、まさか明智さんチョイスだったとは!

その時のことを思い出したのか、副社長はククッと小さく笑う。


「疲れてた時、俺が『ふわふわした猫で癒されたい』って無意識に言ってたらしくて、明智がどっかで買ってきたんだよな。そこまで気を回されると怖いって」

「え、怖……?」


“怖い”というのは予想外だったのか、明智さんはわずかに動揺している。

尽くす秘書と、それを軽くあしらう副社長の関係が妙に面白くて、私はひとり笑いを堪えていた。


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