王様男と冷血男の間で
好きだって言ったら?
円がバーに入ると客はカップルと40代くらいの男が一人しか来てなかった。

カウンターだけの小さな店で一目見ればキングがまだ来てないのがわかった。

するとカウンターからバーテンダーが

「いらっしゃいませ。

もしかして円さんですか?」

と聞いて来た。

円が頷くとバーテンダーが

「お預かりしてるものがあります。」

と薔薇の花束とカードを渡された。

“ごめん。今夜は行けなくなった。

また今度デートしよう”

円はそれを見てガッカリした。

バーテンダーは円の前にカクテルを置いた。

「それとこのカクテルもその方からプレゼントです。」

ピンク色の綺麗なカクテルは一口飲むと桃の香りがした。

ガッカリして家に帰ると
家にはまた真蔵が来ていた。

円はその顔を見てウンザリする。

「円、今日ね、お父さんが美味しい松坂牛頂いたの。

だから真蔵さんをお誘いしたのよ。

円にも何度も電話したのに出ないから先に食べちゃったわ。」

「円も食べなさい。」

「要らない。ご飯食べてきちゃった。」

すると母親が円が持ってる花束に気がついた。

「あら、円?この花束どうしたの?」

「すぐそこで拾ったの。」

「えぇ?」

円は大好きなすき焼きもたべる気力がないくらい
キングに逢えなくてガッカリしていた。

バラの花束を母親に渡し、何も言わずに部屋に入った。

「あの子どうかしたのかしら?

元気がなかったわ。」

母親は心配そうに円の部屋の方を見た。

それを黙って真蔵は見ていた。

円は部屋に入り、着替えもしないでベッドに横たわった。

するときいきなりドアが開いた。

「おい、飯食わないつもりか?」

真蔵がベッドに寝転ぶ円を上から見ている。

「うわっ⁈また、勝手に入ってきたの?」

真蔵は円の手を引き円を立たせると

「着替えて一緒に飯を食え!」

と言った。

「何するの?」

円は思い切り真蔵の手を払いのけた。

真蔵はそんな円の態度に腹を立てた。

「俺がそんなに嫌なら断れはいいだろ?」

「断れないってわかってるでしょ?」

「なら大人しく従えよ!」

「従うって何よ!
あなただって私のこと好きでもないのに
本当に結婚したいの?」

「好きだって言ったら?」

「え?」

円は突然思ってもみないことを言われてたじろいだ。

円を壁に押し付けて真蔵はもう一度言った。

「好きだって言ったら?」

「う、嘘ばっかり。」

真蔵が息がかかりそうなくらい円に近づいて来るので
円はなぜかギュッと目を閉じた。

キスされる…

そう思ったが真蔵は何もしなかった。

「本気にするなよ。

好きなワケ無いだろ?

でもじいちゃんをガッカリさせたくない。

どうせ結婚するなら少しは協力すべきだ。」

そう言って部屋を出て行った。

円は身体の力を抜けてその場に座り込んで泣いた。

キングが来なかった悲しさと
真蔵と結婚しなくてはならない現実に涙が出て来た。

それでも仕方なく着替えて食卓についた。

「少し食べるよ。」

心配していた両親の顔が綻んで安堵の表情に戻る。

真蔵はそんな円を見て少しだけ笑顔を見せた。




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