王様男と冷血男の間で
冷血男の苦悩
円はどうして急に真蔵がここに現れたのか不思議でたまらなかった。

「どうしてここだって分かったの?」

「GPSが付いてる。」

「え?」

「冗談だよ。」

真蔵がそう言って笑う。

笑った顔にまたキュンと胸が痛む。

(私…どうしちゃったんだろう?)

真蔵に少しずつときめいてる自分に気がついて円は首を振った。

「この近くで上司と飲んでたんだ。
帰りに偶然お前ががタクシー拾ってるのを見かけて。

しかし遊び歩いてるとは分かってたがこんな所で男を漁ってるとはなぁ。」

「失礼な言い方しないで!

べ、別に男漁ってる訳じゃないよ!

ここに好きな人がいるの。」

真蔵はそんな円を呆れたように見て言った。

「好きな人?どんなヤツだ?」

「関係ないでしょ?」

「関係はある。結婚相手が浮気してるんだ。」

「う、浮気?」

「何にも知らないで結婚したくないっていうのはそういう事か。」

真蔵はまたフッと笑う。

そして円に息がかかるほど顔を近づけて言った。

「男知らないんだ?」

円はそんな真蔵の頰を叩いた。

「いてっ。何するんだよ?」

真蔵は叩いた円の手首を掴んだ。

「あんたと結婚なんてしたくない!断ってよ!」

「嫌ならお前が断れ!好きな男がいるってな!

お義父さんが悲しむだろうな。」

円はちょっとでも真蔵にときめいた事を後悔した。

「あんたなんか大っ嫌い!」

そんな円の言葉に一瞬真蔵が悲しそうな顔をしたように見えた。

「嫌なら断ればいい。」

そう言ったまま家に着くまでお互い一言も喋らなかった。

その夜、真蔵は円の家には寄らなかった。

真蔵が家に戻ると父親が待っていた。

「お前、毎晩何をしてる?」

「何って…今日は上司に誘われて酒を飲みに行きました。

その後は円さんに会って…送ってきました。」

父親は訝しげな顔で真蔵を見ている。

「また妙な噂を聞いてな。

お前の悪いクセが出たんじゃないかと思って…

真蔵、分かってるよな?

お前はいずれ会社に入って欲しいと思ってる。

後継者には一番優秀な者がなるんだ。

謙蔵が居なくなった今、
俺はお前が1番相応しいと思ってる。」

父はチェストの上の写真に目をやる。

そこには父と母と真蔵ともう一人真蔵にそっくりな男の子の写真が写っていた。

真蔵もその写真を見ながら言った。

「安心してください。

俺は謙蔵みたいにはなりませんから。」

そして父に一礼し、真蔵は部屋に入った。

真蔵は机の上の写真を見る。

双子の兄、謙蔵と肩を組んだ写真だ。

「俺はお前とは違う。

絶対に逃げたりしない。

お前が結婚するはずだった女も会社も全部俺のモノにしてみせる。」

そう言ってその写真立てを思い切り床に叩きつけた。




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