王様男と冷血男の間で
悲恋の過去を持つ男
真蔵は部屋に入ると躊躇わずにベッドに腰掛けた。

円はソファに座ろうとしたが

「おい。」

と自分の座っている横に座れと言わんばかりに
ポンポンとベッドを叩いて座る位置を示した。

円は仕方なくそこに座る。

小さく震えている円を見て

「おれが怖いか?」

と真蔵は薄ら笑いを浮かべて円を見ている。

「な、何にもしないでよ。」

「こんなとこでするわけないだろ?」

そうは言っても落ち着かない円は
色んな話を機関銃のように話した。

真蔵はそんな円を見て幸せな気分になった。

「思ったんだけど…恋とかした事あるの?」

「何だそれ?」

「そんなんで女の人と付き合えたのかなーって思って。」

「失礼なヤツだなー。」

真蔵の脳裏にある女が思い浮かんだ。

中学生の時に出会った柚月の事だ。

柚月の出現は仲の良かった真蔵と謙蔵の間に影を落とした。

二人の間には嫉妬という感情が生まれて
いつの間にか全てにおいて争うようになった。

真蔵はとにかく頭が良かった。

謙蔵は成績ではどうしても真蔵に勝つことは出来なかった。

かたや謙蔵はスポーツが出来て
バスケット部で1年からレギュラーになり
注目の的だった。

その頃から父親は謙蔵の統率力に一目置いていた。

そして何かと真蔵より謙蔵を褒めた。

真蔵は父に認められたくて努力していたが
父親は常に謙蔵を見ていた。

そんな時、柚月がいつも真蔵を励ましてくれた。

柚月は注目の的の謙蔵より卑屈になっていた真蔵を選んでくれたのだ。

「わたしが真蔵くんのそばにいるから。」

中学3年の春に真蔵は柚月と初めてのキスをした。

それを偶然にも見てしまった謙蔵は
ショックを受け高校に入ってからは部活にも入らず
勉強もせずに遊んでばかりいた。

父親はそんな謙蔵にガッカリし
期待は掌を返したように真蔵の肩にかかった。

しかし真蔵はそんなに父と折り合いが悪く
会社を継ぐ気は無いと言い放ち、今も父との間には距離がある。

かたや謙蔵は転落の一途を辿る。

悪い仲間と遊び歩き、
家には帰ってこなくなった。

そして事件は起きた。

謙蔵はケンカが絶えず、敵対してる男たちがいた。

真蔵と柚月が歩いてるのを見て
柚月が謙蔵の女だと勘違いした男たちが柚月を拉致して謙蔵を呼び出した。

柚月が謙蔵の目の前で襲われ
その後謙蔵はそれに耐えられずにますます荒れて行く。

そしてある日突然オートバイで事故に遭いこの世を去った。

謙蔵の身体からは薬物が検出された。

謙蔵の死が事故によるものだったのか、自殺だったのかは未だにわからない。

そして柚月はあの事件の後、
真蔵の前から姿を消してしまった。

その時受けた真蔵の傷は癒えることがない。

「どうしたの?そんな悲しい顔して。」

柚月の事を思い出して胸を痛める真蔵に
円が心配そうに声をかけた。

「あ、いや…ちょっとな。」

「恋…した事あるんだね…」

寂しそうにそう呟いた円を真蔵はいきなり抱きしめた。

「ちょっと、なんにもしないって…」

「いいから動くな。少しだけジッとしてろ。」

真蔵は円の体温に癒される。

円は真蔵には悲しい恋をした過去があるのでは無いかと
この時の真蔵の顔を見て思うようになった。



< 16 / 58 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop