王様男と冷血男の間で
癒される存在
真蔵はしばらく円を抱きしめると
妙に落ち着いて来た。

円の存在こそが今までの真蔵を支えてくれたのだ。

20歳になり祖父から言われた許婚の存在を最初は全く受け入れる気などなかった。

「真蔵、実は円さんは謙蔵にと思ってたんだ。

謙蔵はあの通り悲しい人生を生きて、
一人ぼっちだった。

円さんのような可愛いらしい子がいたら立ち直れるんじゃないかと思ってな。

一度、謙蔵に見に行かせようと思ってた。

しかし謙蔵は円さんに会う前に亡くなってしまった。」

「だから謙蔵のお古を俺に?」

「そんな言い方しちゃダメだ。

それにお古でも何でもない。

会ったことも無いんだから。

小さい頃円さんに会ったことがある。

写真を見せてどっちがいい?って聞いたら迷いもせず真蔵を指差した。

だから最初は真蔵と結婚させようと決めてたんだが、
お前には柚月が居ただろう?

それで謙蔵に許婚がいると言ったんだ。

謙蔵は鼻で笑ってたがな。」

その話を20歳になった頃、祖父から聞いた真蔵は
謙蔵ではなく自分を選んだ円に逢いたくなった。

最もそれは円がまだ3つくらいの何も分からない頃の話だそうだが…

本来なら真蔵が柚月と一緒になり、
謙蔵が円と一緒になるはずだった。

しかし謙蔵も柚月ももう真蔵の側には居ないのだ。

その後必死に探した柚月にはもう別の男がいた。

それを聞いた後、真蔵は偶然にも円の通う中学校の側に行く用事があって
気になって円に逢いに行った。

顔も知らず、知ってるのは円の名前とこの中学に通っているということだけだった。

その時、自転車に乗っていた女子中学生が
クルマに轢かれそうになり自転車から落ちて怪我をした。

真蔵は近くに駆け寄り

「大丈夫?」

と聞いた。

未だあどけないその少女の自転車に西園寺円という名前が書かれていた。

笑顔が可愛くてそれは中学生だった柚月と出逢った時と重なった。

真蔵は円に声をかけた。

「西園寺円さん?」

「え?…あ、はい。」

円は目の前に現れた王子様のような真蔵をみて一瞬で瞳を奪われた。

「わ、私の名前、どうして知ってるの?」

「あ、あぁ…自転車に書いてあった。

それより怪我は無い? 」

恥ずかしそうに頰を真っ赤にして円は

「大丈夫です。ありがとうございました。」

と丁寧に頭を下げた。

そしてポケットから小さな苺みるく味の飴を1つ取り出して真蔵に差し出した。

「ご、ご親切にありがとうございます。」

そう言って恥ずかしそうにその場を立ち去った。

ずっと辛かった真蔵の心を癒してくれた出来事だった。

(あの子が20歳になったら俺の婚約者か。)

真蔵はその日からたまに円を見に行った。

姿を変えて遠くから円を見てきた。

円はどんどん大人になり、綺麗になった。

「円…」

「何?」

「早く結婚しないか?」

「え?い、嫌だよ!まだ遊びたいし…

それよりもう離してよ。」

抱きしめる真蔵の腕からすり抜けようともがく円を
真蔵は逃さないようにギュッと抱きしめる。

「いいからじっとしてろよ。」

円は少し真蔵の様子がおかしいことに気がついていたが
まだ20歳で本気の恋をした事もない円にはその気持ちを理解する事は出来なかった。






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