王様男と冷血男の間で
誰を想って抱きしめた?
真蔵と結婚する前に円も本気の恋をするつもりでいたはずだ。

なのに真蔵はどんどん円の心に入ってくる。

そして真蔵には円に出会う前に恋をした相手がいる。

25才にもなれば当たり前だけど
円は少し不安になった。

真蔵がその相手を忘れてないと思ったからだ。

こんな悲しい顔して思い出すほど好きだった人がいる。

そう思うと円の胸はズキズキと痛んだ。

そして何となく悲しくて悔しくて居たたまれなくなった。

「もう離してよ!

誰のこと思って抱きしめてるか知らないけど
迷惑なんだけど!

もう寝るから出てって!」

急に態度を変えた円に真蔵は少し戸惑った。

「何で怒るんだよ?」

「結婚するかだってまだわかんないし、
これからは勝手に触らないで!」

円の口からは自分でも思ってもない言葉がどんどん出て来た。

「何か気に触ることしたか?」

「いいから出てって!」

「おい、どういうつもりだよ?」

「出て行かないと大声出すから!

そしたらパパやママがアンタを許すと思う?」

円が声を出そうとした瞬間、
呆れたように真蔵は円の口を大きな手で塞いだ。

「わかった。出てくよ。だから騒ぐな。」

真蔵は急に怒り出した円の行動が理解できなかった。

(何だよ。最近は言うこと聞いてたのに…
急に昔に逆戻りだ。)

真蔵が部屋から出ていって円は更に不安になる。

「こんなんで結婚出来るのかな…」

そう呟いて布団に潜ったがなかなか寝付けなかった。

次の日の朝、円は起きて顔を洗いに行くと真蔵が先に洗面台を使っていた。

「おはよう。」

真蔵が挨拶しても円は挨拶も返さずに
まだ不機嫌そうだった。

「ひでぇ顔だな。」

真蔵はそう言って円の顔を覗き込んだ。

「眠れなかったんだ?

勝手に怒り狂ってたもんな。」

「怒り狂ってなんかいません。」

真蔵はそんな不機嫌な円を気にもせず
いつもと変わらない態度だった。

「お前、今日は何するんだ?」

「え?」

「土曜日で学校も休みだろ?」

「今日は友達と遊ぶの。」

「どこで?またクラブで男漁りか?」

「失礼な!」

「夕方まで暇だろ?

少し出かけよう。」

「え?嫌だよ。土曜日は私の自由でしょ?

明日はお義父さんの誕生日パーティーもあるし
明日もまた会わなきゃならないんだから。」

「お前そんなに俺と逢うのが嫌なのか?」

急に真蔵が怖い顔になって言うので円は少し怯んだが
引っ込みがつかなくてそのまま悪態をつき続けた。

「私は…まだ、あなたのことよく知らないし、信用もしてないし、
結婚だって迷ってるんだから…あんまり馴れ馴れしくしないで!」

震えながら歯向かう円が真蔵にはとても可愛く見える。

「へぇ…キスした時、嫌がらなかったろ?

目を閉じて受け入れて…終わった後怒りもしなかったのになぁ。

てっきりオッケーなのかと思ってた。

まさか初めての振りして男を振り回す魔性タイプだったとはなぁ。」

キスのことを言われて円の顔が急に赤くなった。

「あ、あんなこと大したことないもの!」

強がってる円に真蔵はわざと近づく。

壁に追い込み円の耳に唇が触れそうなくらいの距離で囁いてみる。

「じゃあもっとすごいことしようか?

俺を知りたいんだろ?

それを知ってから結婚するかやめるか考えればいいよ。」

「そ、それって?」

その時、

「真蔵さーん、お食事出来ましたよー。」

とキッチンの方から円の母親が真蔵を呼ぶ声が聞こえると
真蔵は意味深な笑みを浮かべ、円から離れキッチンに行ってしまった。

円は真蔵にからかわれたことを本気にして
胸がドキドキしてその場に座り込んだ。













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