王様男と冷血男の間で
過去の束縛
円は追いかけたが、車に追いつく訳がない。

真蔵はそんな円に気がつかずに車を走らせた。

「柚月…泣いても、どうにもならない。

俺にはすでに婚約者がいて、
もう昔には戻れないんだ。」

「どうして?

真蔵くんはまだ私が好きだよね?

なのにどうして?

あの婚約者っていう女の子…

お祖父様のお知り合いのお孫さんだって聞いたわ。

お祖父様同士で話を勝手にまとめただけで
恋愛した訳じゃないんでしょ?

真蔵くんはそれでいいの?

親に決められたレールに乗るのは嫌だって言ってたでしょ?」

恋愛ではなかったけど…
真蔵はこの5年ずっと円を遠くから見て来た。

柚月とあんな風に別れて辛かった時…
癒してくれたのは円の笑顔だった。

「ごめん…そうじゃない。

円はもうただお祖父様に決められた婚約者ってだけじゃないんだ。

それに…柚月はもう俺とは会わないほうがいいと思う。」

柚月はまた泣き出した。

「酷いよ、真蔵くん。

私がどんな思いでニューヨークから来たと思ってるの?

私にはもう真蔵くんしか居ないの。

真蔵くんが受け入れてくれなかったら死ぬしかない。」

真蔵はそんな柚月をどうしても放っておけない。

柚月が自分や謙蔵のせいでどれだけ苦しんだか知っている。

ましてや死ぬなどと言われたら突き放す事などとても出来ない。

真蔵と謙蔵の間で苦しみ、
あんな事件に巻き込まれて…
柚月の人生は大きく変わってしまった。

「泣くなよ。

とにかくご両親に連絡だけはしないと…」

その夜、真蔵は柚月の両親に連絡した。

柚月の父はすぐに迎えに行くと言ったが
母はそれを止め、真蔵に言った。

「真蔵くん、頼みます。
柚月はどうしてもあなたが忘れられなかったの。
私たちではもう引き止められないの。」

真蔵はとても円の事を話せる状況ではなかったが
話さなくてはいけないと思った。

どんなに悪人になっても…円と結婚することを隠しておけなかった。

「それでも…俺たち家族とはもう…会わないほうがいいと思います。

ここに居たら柚月は…また辛い記憶を思い出してしまうかもしれません。

それに…俺にはもう決まった相手がいます。」

母はそれを聞いて泣き出した。

「あんまりじゃない!

真蔵くん、あなた方兄弟が柚月をどれだけ傷つけたと思うの?

柚月が望むなら従うべきよ!」

受話器の前で泣いている母の後ろで
父親が大きな声で怒鳴った。

「もうやめろ!柚月はあの男には絶対にやらん!
迎えに行くと言っておけ!」

もともと父親の会社はアメリカへ進出することになっていた。

柚月のことがあって父親は自ら家族でニューヨークに渡り、向こうで事業成功させた。

そして2度と日本には戻らないつもりだった。

柚月の事件のことを誰も知らない場所で過ごして欲しかったからだ。

しかし柚月は結局真蔵を忘れることができずに家出同然で真蔵の元へ来てしまった。

真蔵は柚月をこのままに1人にはしておけず
その夜、柚月の泊まっているホテルへ一緒に行き、
一晩側に居た。

もちろん柚月には触れなかった。

円が悲しむことはしたくなかった。

「柚月、少し時間をくれないか?

俺もどうしたらいいか…今はわからない。」

「婚約者に会わせて。」

「え?」

「私から話すわ。」

「ちょっと待ってくれよ。

話すって何を?」

「真蔵くんを諦めてもらえるように話すわから。」

真蔵は柚月が暴走してしまうのが怖かった。

それによって円と別れることになったら…
今度は円が心配になった。

「柚月…円は俺にとって大切な人なんだ。

だから…傷つけたくない。」

柚月は円に執着する真蔵が不安になり
どうしても円と別れさせなくてはいけないと思っている。

その頃円は真蔵の浮気現場を目撃したと思い込み
ひどく落ち込んでいた。










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