王様男と冷血男の間で
別れの決意
円は真蔵が気になって仕方がない。

お陰で昨日は一睡も出来なかった。

不安になり、真蔵に電話をかけてみると

「もしもし?」

と女の声がした。

円はその相手が昨日、真蔵と手を繋いで歩いていた元カノだとすぐにわかって電話を切ろうとすると

「もしかして…円さん?」

と向こうから話しかけてきた。

「はい。真蔵さんはそこに居ますか?」

「うん。」

円の胸の奥がチクッと痛む。

「変わってもらえないですか?」

「ごめんね。今、シャワー浴びてて…
出たら電話させるから。」

円はハンマーで頭を殴られたかの様な衝撃を受けたが
怯まずに聞いた。

「今、どこですか?」

「私が泊まってるホテルよ。」

「し、真蔵さんはそこに泊まったんですか?」

「うん。…こんな事になって…ごめんなさいね。
私たち…やり直す事にしたの。
だから…」

円はもうそれ以上2人の話を聞きたくなかったので
柚月の言葉を遮るように言った。

「わかりました。
私から電話があったこと…真蔵さんには黙っててもらえますか?」

「わかったわ。」

円からの電話が切れると
柚月は今の円との通話履歴を削除した。

もう真蔵が信じられず、
結婚は絶望的になった。

そして円は真蔵を諦めようと思った。

(向こうから別れたいって言われるより先に
私から切り捨てなきゃ…

今ならまだ引き返せるはずだし…)

プライドが許さず勢いだけで真蔵と破談にすると誰にも相談出来ずに自分の中だけで簡単に決意してしまった。

本当はこれ以上真蔵と向き合って傷つくのが怖かったのだが
恋愛経験もない円にはもちろん失恋経験もない。

円自身、自分の本心にも気づいていない。

そして気持ちが揺らがないうちに一刻も早くそれを父に話さなければいけないと思った。

「パパ、結婚なんだけど…やっぱり無理みたい。」

「…そうか。真蔵くんは気に入らないか?」

がっかりした父の姿を見ると円は胸が痛んだが
今の円には気持ちが離れてしまった真蔵を追いかけるなんてとても考えられなかった。

「ごめん。…でも…向こうにその気がないみたい。
真蔵さんにはずっと好きな人が居るの。

それなのに…わたしと結婚するって言ってたけど…
私には愛のない結婚なんて…やっぱり出来ないよ。

私は私だけを見てくれる人と恋愛して結婚したいの。」

「わかった。先方にはパパから連絡しておくから。」

「ごめんね…」

破談にしたいと言うまで円には父の会社の事を考える余裕もなかった。

父の顔を見ると思い出したようにそのことが重くのしかかって
父の期待を裏切った事が辛くて涙が溢れてきた。

円が突然泣き出したので、父親は円が苦しんでいたと思って切なくなった。

「円…それでいいんだよ。
円には本当に好きな人と結婚して欲しかったんだ。」

そう言って円を抱きしめた。

そして父親は破談にしたいとすぐに先方に連絡をした。

真蔵の祖父も両親もそれが柚月のせいだとわかっていた。

「西園寺さん、申し訳ない。

ウチの真蔵のせいで円さんを苦しめてしまったみたいだ。

結婚は無理でもこれまで通りお付き合いしていくつもりなので会社の事は心配しないで下さい。」

真蔵の父親がそう言って謝って、
結局円と真蔵の結婚は呆気無く破談になった。

そしてその事をまだ真蔵は知らなかった。


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