王様男と冷血男の間で
俺たち付き合わない?
その夜、円は眠れなかった。

真蔵の言った言葉が何度も頭の中で繰り返される。

「俺と結婚するのはお前だから。」

とか

「俺が好きなのはお前なんだから。」

とか…。

その言葉を思い出して思わず胸がときめいてしまう。

(真蔵が私を好きだなんて考えてもみなかったな。)

しかし真蔵の事はまだ許してない。

元カノと朝までホテルに居たのは事実だ。

結局ほとんど眠れないまま次の日の朝が来た。

「円、結婚の事だけど…」

母は円の結婚を不安に思っていた。

「破談にするのよね。

ママはそれでいいと思ってるわ。

円が嫌だって言うなら…やめて欲しい。

真蔵さんは悪い人ではないけど…

なんて言うか…冷たい感じの人だし…

円にはもっと優しくて明るい人と一緒になって欲しいって思ってたから。」

「パパは何か言ってた?」

「円が嫌なら仕方ないって思ってるわよ。」

「そう。」

(優しくて明るい人かぁ。
きっと義政くんみたいな人なら喜んでくれるのかな。)

そんな事を考えていたら早速義政から電話がかかってきた。

「昨日は大丈夫だった?」

「うん、昨日はごめんね。
初対面なのに変な事に巻き込んじゃって。」

「いや、お陰で円ちゃんのこと少しは知ることが出来た。

彼とはどうなった?

別れられた?」

円は無意識にため息をついた。

「もしかして…彼のことが好きなの?」

「え?ま、まさか!あんな浮気者冗談じゃないって感じ。」

「あの人、どっかで見た事あるんだけど…思い出せないな。

何してる人?」

多分義政が見たのはキングの姿の真蔵に違いないと
円は思っていた。

「あの人は公務員だよ。
何処だっけな?総務省?ん?財務省だっけな?」

「へぇ、すごい人なんだ。
じゃあ、どこかで会うなんて縁のある人でも無さそうだ。

勘違いかな?それとも他人の空似ってやつかな?」

「似てる人かもね。」

真蔵がキングだと知ったら義政はビックリするだろうと思いながら
円は真蔵の為に口を閉ざした。

「とにかく、あの人のことはいいとして…
俺たちはこれからどうしようか?」

「え?」

「円ちゃんさえ良かったら、俺たち付き合わない?」

「え?…えーっ?」

思いもかけない義政からの提案は円をもっと悩ませた。

義政は優しくて明るくて、一緒にいると楽しかった。

かたや真蔵は一緒にいると緊張するし
意地悪だし、オレ様だし、優しくもない。

ただ気になるだけだ。

ただどうしても気になるだけだった。

それがどうしてなのかは円にはまだわからなかった。

「義政くん、もう少し時間がほしい。」

「うん、もちろんすぐにとは言わないよ。

返事待ってるから。

クラブにはいつ来る?

俺、明後日はバイトも休みだから顔だすけど…

円ちゃんも来る?」

「うん。行けたら行くね。」

円は迷っている。

このまま真蔵から逃げ出して楽になりたかったからだ。

義政みたいな元気な普通の男の子と付き合う方が幸せに思えた。

その頃、真蔵も柚月との間で苦しんでいた。






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