王様男と冷血男の間で
嘘と破談と新しい恋
真蔵を引き止める為に柚月はその夜、
自分の手首を切り、いつもより少し多い量の睡眠薬を飲んだ。

その日、柚月の父親が日本にやって来て
発見が早く、柚月は一命を取り止めた。

実は柚月は父親が来ることを知って
発見されることを見越して手首を切った。

睡眠薬も少し多いだけで死ぬほどの量ではない。

狂言自殺だと真蔵にはわかっていたが、
これが原因で真蔵は柚月と離れられなくなった。

そしてその事は円の耳にも届いた。

真蔵が家に来て

「円さんとの結婚は無かったことにして下さい。」

と言って来た。

その後で円は真蔵と二人で話しをした。

「ごめん。お前とはここまでみたいだ。

今まで…振り回してゴメン。」

あの真蔵が悲しそうな顔で真剣に謝るから
円は何も言い返せなかった。

「謙蔵と俺は…柚月に償いきれない罪を犯したんだ。

もうこれ以上アイツを傷つけられない。

柚月以外の女を愛することは許されないんだ。」

円は真蔵が苦しんでることを知り、
身を引く覚悟をした。

「わかった。

どっちにしろ私は真蔵とやってく気なかったから
心配しないで。」

精一杯強がって、涙も我慢して、
何でもないように振る舞ってる円は
真蔵を余計辛くさせた。

「円…俺はお前を…忘れられるかな?」

真蔵が最後に円を抱きしめてそう言った。

円は我慢していた涙が溢れそうになって
真蔵の腕から離れた。

「バイバイ。

これでおしまい。

アンタに会わないと思うと清々する。」

そう言って円は部屋を飛び出した。

真蔵は円の両親に深々と頭を下げ
結婚が無くなった事を謝った。

円の両親は円の気持ちを知らなかったから
破談は円が望んだ事だと思っていた。

そして円は泣きながら麻耶に電話をかけた。

「どうしたの?何があったの?」

泣いてる円を心配した麻耶は円を部屋に呼んだ。

麻耶は親にナイショで恋人の洸太と同棲している。

洸太は医者の卵でほとんど家に居なかった。

「洸太くんは?」

「病院で宿直だって。

それより…何があったの?

この前からずっとおかしかったよね?」

円はなかなか口を開かなかった。

麻耶はしつこく聞かずに話題を変えた。

「それより聞いたよ〜。

義政くんに付き合ってって言われたんでしょう?

どうするの?

ね、クラブいかない?

義政くんも来るかも。」

円は迷っていたが落ち込んでもいられないし
麻耶とクラブに行くことにした。

「最近、キング来なくなったよね?」

「え?」

麻耶にキングの事を言われて真蔵のことを思い出した。

円はキングが来なくなった理由を知ってる。

柚月から目を離せないからだ。

円の胸はまたズキズキと痛み出す。

「円ちゃん」

その時、義政が後ろから声をかけて来た。

「今から踊り行くの?

俺も行くよ。」

そして3人でクラブに入ると
フロアは賑わっていた。

その人の波の中心にキングがいる。

(真蔵…こんなトコで何してるの?)

円はいつもよりテンションの高いキングを心配そうにみていた。

すると義政がそんな円を後ろから抱きしめた。

「円ちゃん、キングに見惚れてないで
あの返事聞かせてもらえない?」

円の耳元でそう囁いた。

大音量の音楽が遠くで聞こえ、
義政の囁く声だけがハッキリと円の耳に残った。














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