王様男と冷血男の間で
真蔵の嫉妬
義政に告白された円の事が真蔵は気になって仕方なかった。

円がずっと自分の事を好きでいる自信なんか無かった。

真蔵には柚月がいて、
円の恋愛に口を出す権利などもう無いから…

誰か別の相手を見つけて幸せになるべきだと思ったが
自分の気持ちの整理がどうにもつかないままだ。

「真蔵くん、わたしの話聞いてる?」

柚月はすっかり変わってしまった真蔵に不安を感じていた。

何とかして引き止めようと狂言自殺までしたが
手に入れたのは抜け殻の真蔵だった。

昔、自分に向けてくれた愛情は円の所に置いてきてしまったようで柚月は必死でそれを取り戻そうとしていた。

「柚月、今日は帰る。」

「昨日もほとんど話しもしないで帰ったじゃない?」

「悪い。1人で考えるたいことがある。」

柚月が止めるのも聞かず、真蔵は帰って行った。

その頃円は義政とクラブにいた。

円は義政が楽しそうに踊ってるのを見ながら摩耶とお酒を飲んでいた。

「義政ってさ、本当に踊るの好きなんだねぇ。」

「しかも上手だよね。」

「本当はね、ダンサーになりたかったんだって。」

「え?そうだったの?何でならなかったのかな?」

「高校生の時、バイクで事故って左の足、怪我して…プロで踊っていけるほど完全には回復しなかったって言ってたよ。

日常生活には問題ないらしいけど
あまり長い時間は踊ってられないみたい。」

「義政くんてシェフになりたいんじゃなかったの?」

「それがね、ダンサーになれないってわかって落ち込んだ時に食べたイタリアンが物凄く美味しくて
感動して、人を幸せにする料理を作ろうって思ったらしいよ。

単純だよね?どんだけポジティブなんだか…。」

麻耶はそう言ったけど
円にはそんな義政が羨ましかった。

挫折してもまた新たな夢を持つ義政を素敵だと思った。

「いいね、義政くん。」

「付き合ってみたら?」

「…うん、そうだね…」

そうは言ったものの円の心の中の真蔵はなかなか消えてくれない。

「何があったかは聞かないけど…
婚約者とは破談になっちゃったんでしょ?

キングとも何かあったみたいだし…。」

「なんにも無いよ。
べつにあんなヤツ。」

円の瞳が少し潤んだのを麻耶は見逃さなかった。

しかし、今はそっとしておいてあげようと麻耶はそれ以上そのことに触れなかった。

「よう、麻耶、円!来てたんだ?踊らねーの?」

麻耶は常連の遊び仲間の宗に呼ばれて踊りに行った。

摩耶と入れ替わるように
義政が戻って来た。

よく見ると踊った後、少し足首を気にするように
回していた。

「足…痛むの?」

「いや、大丈夫。

円は踊らないの?」

「うん。踊り下手くそだし…飲んでる方が好きかも。」

どことなく寂しげな円を見て義政は不安になった。

「円…ここじゃなくて俺の部屋で飲まない?」

「え?」

円の手に義政が指を絡めて優しく包んだ。

「行こう。」

円は断ることもせず席を立った。

そこに大きな歓声が聞こえキングが円たちの目の前に現れた。

真蔵は義政と円が手を繋いでいるのを見て
思い切り動揺した。

円は咄嗟に繋いだ手を離そうとしたが、
義政はキングを睨みつけ
戸惑う円の手を強く握り、キングの方に向かって歩き出した。

真蔵の横を通り過ぎようとしたとき、
真蔵は我慢できず円のもう片方の手を思わず掴んでしまった。

ビックリして振り返る円を引き寄せ

「行くな、お前は俺のモンだろうが…」

と耳元で囁いた。

円は身体の力が抜けてその場に座り込んだ。






< 35 / 58 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop