王様男と冷血男の間で
柚月の気持ち
その夜、真蔵は柚月の泊まっているホテルに戻った。

「明日、柚月のお父さんが迎えに来る。

それまで柚月のそばに居るよ。」

柚月は不安そうに真蔵を見ている。

そして真蔵に抱きついた。

「真蔵くん、どうして帰らなきゃいけないの?
私は真蔵くんの側に居たい。」

「ごめん。どうしてもお前とは結婚出来ない。
俺には円が必要なんだ。」

「私が死ぬって言っても?」

「柚月、俺のためなんかに自分の命を賭けるな。

お前には幸せになって欲しい。」

「それなら私と一緒に居てよ。」

柚月は全く聞く耳を持たなかった。

「お前は俺を見ると嫌でも謙蔵を思い出すだろ?

俺も同じなんだ。

アイツのせいで柚月をあんな目に遭わせて
俺は謙蔵を許さないと思った。

でも、俺より辛かったのはアイツだった。

あのあとアイツが呆気なく事故で死んで
ものすごく腹が立ったけど…

アイツの死はただの事故じゃなかった。

アイツは…死のうと思ってあの事故を起こしたんだ。

それほど思いつめてた。

俺はどうしていいか分からなくなった。

お前が去って…恨む相手も居なくなって、
そんな時、円の存在を知ったんだ。

円はまだ中学生で
あの笑顔に癒された。

俺は辛い時、円の笑顔をこっそり見に行った。

アイツはいつも笑ってて幸せそうだった。

5年間、辛くて堪らなかった事は何度もあった。

でもそんな俺を支えたのは円のあの笑顔なんだ。」

柚月は泣いていた。

謙蔵の死の真相を知らなかったから。

真蔵は柚月の肩を抱いた。

「ごめん、心変わりして…

お前だけを愛してるって誓ったのに…」

「真蔵くんと別れた後、
謙蔵くんが亡くなったって聞いて…
私ね、最初は自殺したんだと思った。

謙蔵くんは正義感が強くて
その分脆かったから私の事件の後、
どうしてるかずっと気になってた。

でも事故だって聞いて少し救われたの。

だけどやっぱり違ったのね。

私ね、ずっと後悔してた。

あの時、謙蔵くんじゃなくて真蔵くんを選んだ事。

謙蔵くんを選んでたら謙蔵くんが道を外れる事も無かったろうし、

私があんな事件に遭う事もなかった。

そして謙蔵くんが死を選ぶことも…

私が謙蔵くんの運命を変えてしまったの。

あの時真蔵くんと別れたのは
謙蔵くんのためでもあった。

あんなことがあって謙蔵くんが真蔵くんとつき合う私を見ていられないと思ったし…

事件の事を知る真蔵くんと付き合う自信もなかった。

真蔵くんはあの後も変わらずに好きだって言ってくれたけど…
無理だってわかってた。

今さら戻りたいなんて言うつもりは無かったのに
顔を見るだけで良かったのに…

真蔵くんの隣には円さんがいて
幸せそうにしてるあなたを見て
嫉妬したわ。

私はあなたと別れてあんなに辛かったのに
他の女の子と幸せになるなんて…

でも…違ったのね。

真蔵くんもすごく苦しんでたのね。」

柚月は謙蔵の死がただの事故では無かったと知って
真蔵や真蔵の両親が自分以上に苦しんでた事を知った。

「明日…父が来たら一緒にニューヨークに帰るわ。」

そして円は次の日の夜、迎えに来た父親と
2日ほど日本で過ごしてからニューヨークに帰っていった。












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