王様男と冷血男の間で
円の失踪
ー結婚する自信がありません。ごめんなさいー

置き手紙はそれだけだった。

母親は焦って円に何度も電話かけたが
電源が落ちたままだ。

父は真蔵に連絡して
真蔵がその事実を知った。

「何かあったのか?」

「いえ、すいません。

私も心当たりを探してみますので。」

真蔵はまず麻耶を訪ねた。

「え?円が家出ですか?」

「それは知らなかったって事だよな?」

「はい。」

麻耶の顔を見た限り嘘はついてなさそうだった。

「まさかとは思うけど…あの義政って男と連絡は取れるか?」

「わかりますけど…えー?まさか義政と?

ないない!無いですよ!」

麻耶は必死で否定したが心の片隅ではもしかしたらと少しだけ疑ってしまう。

「それでも連絡してみてもらえないか?」

「わ、わかりました。」

ドキドキしながら義政に連絡すると
義政は普段と変わらずに電話に出た。

「円知らない?」

「え?何で?」

その答えを聞いてホッとする。

「電話繋がらなくて、急用で探してるんだけどなかなか見つからなくてさ。」

「いくらなんでも俺のところには来ないだろ?」

「だよね。いや。まさかと思ってさ。

最近、円…元気なかったから。」

義政はそれを聞いて思い出した。

「円ちゃん、完全なマリッジブルーだろ?

この前会った時も結婚迷ってるみたいだった。」

「わかった。とにかく円と連絡取れたら教えて。」

麻耶は電話を切ると真蔵に言った。

「円、マリッジブルーだったって
気付いてました?

最近ずっと元気なくて…私にも結婚するの不安だって言ってました。

真蔵さん、義政の事で円を責めたでしょ?

でも円があんなことしたのも真蔵さんのせいですよ。」

「責めてない。俺だって悪かったと思ってたんだ。」

「何も言わなくても真蔵さんの態度に責められてる気分になったんですよ。

とにかく探してみますから。

真蔵さんもちゃんと探してくださいね。」

麻耶に怒られてやるせない気持ちになった。

確かに冷たくしたかもしれないと思って反省してみても
円がこのまま帰ってこない不安は拭えない。

結局その日は手がかりの無いまま夜になってしまった。

真蔵は仕事しながら必死で円を探した。

結婚式まであと5日と迫ったが依然として円の消息はつかめなかった。


そのころ円は鎌倉に来ていた。

家出した日に高校の時の同級生の真由子に偶然出会った。

真由子は高校生のときに妊娠して卒業と同時に結婚した。

今は鎌倉に住んでいるが
たまたま実家に用があってこっちに戻ってきた時に会ったのだ。

旦那は当時大学生で円も何度か会ったことがあるが
今は事情があって別居してるらしい。

円は結婚について真由子に色々聞きたかった。

「ね、円、良かったらウチに泊まらない?」

途方に暮れていた円にはその一言が有り難く
その日から真由子の鎌倉の家に居候していた。





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