王様男と冷血男の間で
dance & kiss
円が首を長くしてキングが来るのを待っていると
入り口の方に人が集まってる。

ほとんどが女の子で円はキングが来たとわかった。

「麻耶、行くよ!」

円がキングの方へ駆け寄り

「キング!」

と声をかけるとキングは嘘みたいに円のほうを向いた。

キングは今日もサングラスをかけ、深々と帽子を被ってる。

「よう、マドカ!
今日も来てるのか?」

キングが自分の名前を覚えててくれたことに円は喜びを感じる。

真蔵には呼び捨てにされたく無いけど
キングに呼び捨てされると胸が高鳴った。

「思うんだけど…キングって超絶イケメンて聞いたけど顔ちゃんと見たことないよね?

常にサングラスかけてるし…帽子かぶってるし…
目鼻立ちは抜群だけど
もしかしたら目が離れてて
頭禿げてるかもしれないじゃん?」

麻耶はそう言ったけど
円は絶対イケメンだと信じてる。

「だってちゃんと見た子もいるんでしょ?」

「うん、ちゃんと顔出してる時もあるらしい。

でも私たちがいるときはいつもサングラスかけてるよね?」

「何か理由があるのかな?」

「整形とかしたんじゃない?
で、失敗したとか!」

「でもね、私近くで見たけど本当に素敵だったの!

夜なのにサングラスって何か変だけど…本当にカッコいいって分かるもん!」

そうは言ったものの円はキングには大きな秘密があるような気がしていた。

名前も教えてくれなかったし…

誰もあんまり近くに寄せ付けない。

それなのに何故ここに毎日来るのだろうか?

だがその日は特別だった。

キングが上から降りて来て踊ったからだ。

「キャー‼︎」

歓声が鳴り響き、キングの前から自然と踊ってる人が消えていく。

キング一人のステージみたいになって
みんなが黄色い声を上げた。

「めっちゃかっこいいー。」

さっきまでキングが禿げてるかもとか言ってた麻耶もすっかり見惚れている。

円に至っては一人ボーッとキングに魅入っていた。

(ホントに素敵な人。)

円がボーッとしてるとキングが近づいて来て円の手を取った。

「一緒に踊ろう。」

円はキングに誘われキングと一緒に踊った。

フロアは歓声と嫉妬に包まれた。

次々とホールに人が来て、
周りの人たちも踊り出した。

曲が終わるとキングは円に

「楽しかったよ。」

と言って事もあろうに円の頰にキスをした。

円は倒れそうなくらいビックリして
その場所を暫く動けなかった。

キングは踊り終わるとまた風のように居なくなった。

「円、大丈夫?キング帰っちゃったよ。」

麻耶に声をかけられ円は我に返る。

「麻耶…私、キングが本気で好きになりそう。」

いい気分でクラブを後にして
家に返るタクシーの中でキングとの楽しい時間を振り返っていると
そこへ真蔵から電話来た。

円は今の素敵な気分が台無しになって
現実に引き戻された。

「もしもし、何ですか?」

円が冷たい声でそう言うと

「お前、今何処にいるんだ?

これからお前の家に届け物に行くんだが…」

「まだ外。」

「遅くまで何してるんだ。

何処だ?ついでに迎えに行ってやる。」

「もう家の近所だよ。」

円がタクシーを降りると真蔵が家の前に車を停めて待っていた。

クラブ帰りの円のカッコをみて

「なんちゅーカッコしてんだ?」

と呆れて円を見た。

真蔵はスーツではなく
珍しくセーターにデニム姿で髪は洗いたてみたいに下ろしていた。

何となくいつもと違う真蔵に調子が狂う。

「結婚前だし、平日に何しようと干渉しないで。」

「遊びまくりやがって。」

その時、円は真蔵からキングと同じ匂いがしたのに気がついた。

「香水付けてる?」

「いや、シャワー浴びて来たからシャンプーの匂いだろ?」

円は真蔵からキングと同じような香りがした事でさえ
不愉快だった。



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