失恋相手が恋人です
「……わかるよ、葵くん」

これは私の本当の気持ち。

本心だ。

たとえ、気持ちがかなわなかった、伝わらなかったとしても一度でも本気で好きになった人に再会したり、会ったら気持ちは揺れる。

好きだった気持ちが再燃するとか諦めたくないとかそういう気持ちもあるだろうけれど、ただ、その人をひたむきに好きだった頃を思い出して懐かしくなったり、好きだった人の幸せを願うけれど、切なくなったり。

そんな気持ちはきっと誰にでもあって。

葵くんが言いたいのはきっと後者の切ない気持ち。

「……私、葵くんが歩美先輩をいつも見るために階段教室に来ているんだって思ってたの……。
歩美先輩を好きな葵くんを好きになってしまった私の気持ちは絶対に報われないって。
告白する前から失恋だなって思ってた……」

葵くんは自分の気持ちを話してくれた。

今度は正直に私が葵くんに伝える番。

「……葵くん、ごめんね。
私、私、本当にちゃんと葵くんに謝らなくちゃいけないことたくさんあるの。
葵くんは私にさっきから何回も謝ってくれているけれど、本当は私がきちんと謝らなくちゃいけないの……!」

一気に私が言うと、葵くんは腕を伸ばして私の肩を抱き寄せた。

「……沙穂はもう何回も俺に謝ってくれたよ」

「違うの、違うの!」

私は首を勢いよく横に振って葵くんの綺麗な瞳をしっかり見る。

ずっときちんと本当のことを話したかった。

私達の絡まってしまった最初の出会いをきちんと直したかったから。

それからもう一度、きちんと結び直したい。
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