失恋相手が恋人です
萌恵達を待たせていることもあるので、走って校舎まで戻るけれどやっぱり暑い。

息が切れてきたので、出来るだけ急ごうと急ぎ足に切り替えても際限なく汗が顔や背中をつたう。

「恐るべし、夏……」

気合いとも何ともつかない独り言を呟きながら私はタオルを持って来なかったことを後悔していた。

別に誰かに注目されているわけでもないけれど、汗だくで走っていることは、何だか恥ずかしい。

子どもだと可愛らしいのだけれど、傍目に二十代位な私がタオルひとつ持っていないってどうなの、と思われそうな……。

そんなことを考えながらやっとの思いで図書室に辿り着いた。

図書室は外の暑さが嘘のようにカチンと冷えていて、相変わらずの静けさを保っていた。

足を踏み入れた瞬間の心地いい冷たさは汗だくの身体には、少し寒く感じるくらいで。

急ぎ足で書架の間を通り抜け、鞄の中に無事見つけスマホとタオルを握りしめて踵を返したその時。

窓の外に、桧山くんを見つけた。

彼は急いでる様子もなく、暑さを感じている様子でもなく、いつもと変わらない様子で歩いていた。

ブランド名がロゴされた白い半袖シャツにカーキ色のチノパンに斜めがけしたバッグという涼しげな装い。

無意識に窓の傍に走り寄る。

久し振りに彼の姿を見ることができた私はただそれだけで何だか嬉しかった。

スマホを忘れて汗だくで取りに戻ったことが帳消しになるくらいに。

図書室にいるまばらな学生達は、桧山くんにも窓から彼を見つめる私にも気付いていなかった。

彼は本館の方角に向かっていた。

図書室は独立した三階建の建物で、本館からは少し離れている。

私が今いる場所は二階。

何も考えず、私はただ急いで図書室をあとにした。

階段をかけ降りて建物の外に出ると、彼の姿はなかった。

何となくの可能性を感じて本館の方へ走る。

本館の方に向かう道にも彼の姿はなく、入り口にも彼の姿はなかった。

辺りをキョロキョロ見回してみても彼の姿は見つけられず。

「もしかして……」

いつもの階段教室かと思って階段教室がある辺りの本館校舎裏にまわってみる。

上を見上げながら歩いていた私の眼に、階段教室のカーテンが翻るのが見えた。

そして。

上しか見ていなかった私はドンッと誰かにぶつかった。








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