失恋相手が恋人です
歩美先輩は何だか嬉しそうに木々を見ていた。

それから腕時計を見て。

「お腹すいたわ……あっ、沙穂ちゃん、よかったら一緒にご飯食べない?
折角お知り合いになれたんだし」

「え、あっっ」

そこで私は萌恵達のことを思い出した。

スマホを取りに戻ると言って校舎に戻ってきてから随分な時間が経っている。

思わずスマホの着信履歴を見る私。

「ご、ごめんなさいっ、私、友達をお店に待たせっぱなしでしたっ」

「えっ、そうなの?大丈夫?」

「は、はいっ。
すみません、急いで向かいますっ」

「うん、暑いし気をつけてね。
本当にまたよかったら話そうね」

歩美先輩は優しくそう言ってくれた。

「失礼しますっ」

私は挨拶もそこそこに走り出した。

足を動かしながらスマホを操作して萌恵に電話する。

二回目の呼び出し音で萌恵がでた。

「ちょっとっ、沙穂っ」

キィンと萌恵の苛立つ声が耳に届く。

「もうっ何してたのよっ
スマホ見つからないのかと思って心配したじゃないっ
知らない人に渡ってたら危ないしと思って電話も控えてたのにっ」

「ご、ごめんね、スマホは見つかって今から駅に向かうから……」

「もう、いいわよ。
あまりに来ないし連絡ないから心配になって、適当にお弁当買ったわよ。
今、そっちに向かってるから」

怒りながらも呆れ声の萌恵、その横から。

「大丈夫、大丈夫、沙穂ちゃん。
萌恵、沙穂ちゃんの心配と空腹でイライラしているだけだから。
スマホも沙穂ちゃんも無事で良かったよ」

と、のんびりした吏人くんの声が聞こえた。

「吏人くん、ごめんね、暑い中、本当に……」

「吏人のことはいいわよっ。
もうっ、往復してるんだからねっ。
時間がかかりそうなら言ってよね、心配するでしょっ」

相変わらずの萌恵。

「萌恵、そんなかりかりしてたら汗だくになるぞ」

「余計なお世話よ、全く。
もうジュースは沙穂の奢りだからねっ」

「親友にたかるなよ……」

二人のやり取りがおもしろくて、私は不謹慎にも笑ってしまった。
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