失恋相手が恋人です
歩美先輩から、連絡がないまま二週間が過ぎた。
日に日に暑さは増し、蝉の鳴き声も大きくなっていった。
私は卒業以来、久しぶりに大学の最寄り駅に来ていた。
今日はこの近くにある会場で、会社のマナー研修会に参加することになっていた。
久しぶりに降り立った駅に懐かしさがこみ上げてきたけれど、開始時間まで余裕がなく私は急いで会場に向かった。
マナー研修会は年に一度参加が義務付けられているもので参加日は各自の業務予定と調整して受講することになっているため、見知った顔を見つけることはできなかった。
午前、午後と講義は分かれていたけれど、思った以上に内容が楽しく、あっという間に研修会は終わってしまった。
今日は直帰をして良いことになっているけれど、上司へ研修会が無事に終わった報告と、何か急ぎの用件はないかを確認するため、会社に電話した。
「お電話ありがとうございます。
双葉不動産株式会社 田巻です」
私が指導係を務めている二年目の後輩、田巻梨華が電話に出た。
「梨華ちゃん?
お疲れ様、丹羽です」
「沙穂先輩っ!
お疲れ様です。
研修、終わったんですか?」
弾けるような笑顔が目に浮かぶ明るい声で梨華ちゃんが私に問う。
「うん、今終わったの。
木戸マネージャーいらっしゃる?」
「ちょっと待ってくださいね……沙穂先輩、木戸マネージャー、今、会議中ですね」
梨華ちゃんの後ろから誰か男性が指示をする声がした。
「今、土田リーダーが今日はもう直帰してくださいって。
木戸マネージャーから伝えるように言われてたそうです」
「そう、ありがとう、梨華ちゃん。
今日は何か急ぎの案件とかあった?」
すると梨華ちゃんはいきなり声の調子を変えてきた。
「あります、あったんですよっ、先輩っ。
仕事じゃないですけど、すっごいキラキラな出来事なんですよっ」
「き、キラキラ?」
梨華ちゃんの興奮具合にたじろいで思わず聞き返す私。
キラキラって……。
「そう、キラキラなんですっ。
新しいマネージャーが配属されたんですよっ、営業一部に!」
「へえ……」
「もう、先輩、もっと驚いてくださいよ!
営業一部ですよっ。
新規事業開発部も兼ねてるエリートの営業一部ですよっ」
「わかってるけど……私達の部署とそんなに接点ないよね?」
「そうですけどっ。
その方、他社で海外勤務されてたらしくて。
中途採用なんですって。
しかもすっごい若いらしいんですっ。
それでいきなり営業一部のマネージャーですよ、すごくないですかっ?」
「す、すごいね」
あなたの情報網がね、と言いかけて慌てて黙る。
日に日に暑さは増し、蝉の鳴き声も大きくなっていった。
私は卒業以来、久しぶりに大学の最寄り駅に来ていた。
今日はこの近くにある会場で、会社のマナー研修会に参加することになっていた。
久しぶりに降り立った駅に懐かしさがこみ上げてきたけれど、開始時間まで余裕がなく私は急いで会場に向かった。
マナー研修会は年に一度参加が義務付けられているもので参加日は各自の業務予定と調整して受講することになっているため、見知った顔を見つけることはできなかった。
午前、午後と講義は分かれていたけれど、思った以上に内容が楽しく、あっという間に研修会は終わってしまった。
今日は直帰をして良いことになっているけれど、上司へ研修会が無事に終わった報告と、何か急ぎの用件はないかを確認するため、会社に電話した。
「お電話ありがとうございます。
双葉不動産株式会社 田巻です」
私が指導係を務めている二年目の後輩、田巻梨華が電話に出た。
「梨華ちゃん?
お疲れ様、丹羽です」
「沙穂先輩っ!
お疲れ様です。
研修、終わったんですか?」
弾けるような笑顔が目に浮かぶ明るい声で梨華ちゃんが私に問う。
「うん、今終わったの。
木戸マネージャーいらっしゃる?」
「ちょっと待ってくださいね……沙穂先輩、木戸マネージャー、今、会議中ですね」
梨華ちゃんの後ろから誰か男性が指示をする声がした。
「今、土田リーダーが今日はもう直帰してくださいって。
木戸マネージャーから伝えるように言われてたそうです」
「そう、ありがとう、梨華ちゃん。
今日は何か急ぎの案件とかあった?」
すると梨華ちゃんはいきなり声の調子を変えてきた。
「あります、あったんですよっ、先輩っ。
仕事じゃないですけど、すっごいキラキラな出来事なんですよっ」
「き、キラキラ?」
梨華ちゃんの興奮具合にたじろいで思わず聞き返す私。
キラキラって……。
「そう、キラキラなんですっ。
新しいマネージャーが配属されたんですよっ、営業一部に!」
「へえ……」
「もう、先輩、もっと驚いてくださいよ!
営業一部ですよっ。
新規事業開発部も兼ねてるエリートの営業一部ですよっ」
「わかってるけど……私達の部署とそんなに接点ないよね?」
「そうですけどっ。
その方、他社で海外勤務されてたらしくて。
中途採用なんですって。
しかもすっごい若いらしいんですっ。
それでいきなり営業一部のマネージャーですよ、すごくないですかっ?」
「す、すごいね」
あなたの情報網がね、と言いかけて慌てて黙る。