明け方の眠り姫
「……もうやだ、私。かっこわる」
「かっこ悪くなんてないよ。夏希さんはかっこいい。いつも一人で頑張ってる」
こんなにかっこいい女の人はいない。
それが貴方に近づこうとした最初のきっかけなんだから。
テーブルに突っ伏して泣く夏希さんの頭を、撫でて宥める。
そうしていると、伏せたままの彼女の肩の力が、少し抜けたような気がした。
このまま気が済むまで泣いて、少し眠ればいい。
我慢してため込むから、きっといっぱいいっぱいになって自分でもどうしようもないくらいになるんだ。
あんな風に。
……披露宴で堪え切れずに、隠れて涙を流すくらいに。
何度も何度も、髪を漉くようにして頭を撫で続けて、やがて伏せたまま寝息が聞こえはじめるまで、それほど時間はかからなかった。
おやすみ、夏希さん。
頭を撫でる手を徐々にゆっくりにして、起こさないように。
熟睡したのを確認して覗き込むと、横を向いた夏希さんの寝顔を見ることができた。
このままでは熟睡もできないだろうし、疲れも取れないだろう。
少し悩んだが、そろりと抱きよせても全く起きる気配もないので覚悟を決めてそのまま抱え上げる。
勝手に寝室に入るのは流石にまずいと思うけど……そこは後で素直に謝ろう。
「決して、疚しいことは、致しませんよ、と」
まるで言い訳みたいに口にしながら、寝室のベッドへ運ぶ。
ぎし、とベッドが軋んでも瞼はピクリとも動かなかった。
「……」
ちょっとくらい、悪戯してやろうかと思ったけど。
子供が泣き疲れて眠ったみたいな、無防備な寝顔に毒気を抜かれてしまった。
仕方なく諦めて、背中を支えていた手を抜こうとしたら、いきなり夏希さんが寝返りを打って腕に抱き着いた。
「え……ちょ……」
ちょ……何、この状況。
何の試練? 罰ゲーム?
腕に明らかな、膨らみが当たる。
どう考えたって、かなり上等の据え膳なんだけど。
「ん……」
と、可愛らしい声で身動ぎをする。
そんな夏希さんを目の前に、せめて彼女が目を覚ますまではと耐えて見せた僕を、誰か褒め讃えて欲しい。