明け方の眠り姫
可愛い顔してすよすよと眠る彼女に、見てろよ起きたら苛めてやるとか思いながら、随分と長い間寝顔を眺めていたと思う。


そう、随分と、長い間。
何度かうたた寝をしてしまったが、手を握られたまま床に座った状態であったため、腰が痛い上にかなり冷える。


「……お姉さん、そろそろ起きません?」


深夜を過ぎた頃から、流石にもう帰ろうと何度も思ったのだが。


手を引き抜こうとすれば、まるで逃がさないとでもいうようにぎゅうっと抱きしめて蹲るものだから、それ以上無碍にも出来ない。


結局帰ることは諦めた。
ベッドの足元にあった毛布を拝借し、手を繋いだまま仮眠をとることにして。


途中、何度も目が覚めたけど、夏希さんの方は全く起きる気配すら、なかったのである。


そうして、遂に明け方。



「……ちょっと。お姫サマ」



無理な姿勢での睡眠で身体が余計にだるい。


うっすらと窓の外が白み始めている。
恨みがましく声をかけても無邪気な寝顔にまたしてもしゅるしゅると毒が抜かれた。


悪いことをしてやろうと思う度に、この顔を見ると気が削がれる。
一晩、この繰り返しだ。


一体どれだけ眠れば気が済むのやら。


男が部屋にいる状況で、こうまで熟睡できるものだろうか。
泣いた名残の、腫れた瞼を撫でながら、苦笑いを浮かべる。


なんて、アンバランスな人だろう。


強い女性かと思えば、ほっとけないくらいに弱くて。
生真面目できっちりしてそうなのに、案外だらしなくて家事が苦手。


出来る女の代表格みたいな人かと思えば、小さな子供みたいに無防備で無邪気で。


短いけれどさらさらの横髪を撫でていると、綺麗な横顔が少し上向いた。


雪が陽の光を反射する中、同じようにきらきらとした涙を流す横顔を見た時、泣いているのに綺麗だと思った。
だけど、こんな寒空の中泣かせるような思いを二度とさせたくないとも思う。


「……どうしよう? 僕、貴女に本気になったみたいです」


夢の中にいて僕の声など聞こえてもいない、まるで眠り姫のようだと思えば、誘われるように、その寝顔に唇を寄せた。



……ごめんね。
先にこっそり、謝っておこう。


唇の柔肌を触れ合わせて、小さく啄む。
それでも、瞼は閉じたままだった。


眠ったままの貴女にキスをして、もしも目が覚めてくれたら。
こんな僕でも、王子様になれるかと


そんな小さな、悪戯心が起こした秘密のキスだった。

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