明け方の眠り姫
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昔から家は両親が店で忙しかった為、下の妹達の世話や家事は僕が引き受けることが多かった。


元々そういったことに向いていたのか、苦に思ったことも特にないけれど、これほど感謝したこともない。


家事ができない夏希さんの為に(できないんじゃなくて、暇がないのよ!と彼女は言うけれど)まさか長年培った家事能力が活かせることになるとは思わなかった。


あの日を境に、僕は掃除や食事を作るために彼女の部屋に何度となく出入りしている。
ほぼ毎日と言っていいくらいだ。


泣き疲れて眠った夏希さんに付き添った翌朝、彼女はなんで僕がここにいるんだと状況を把握しかねて茫然としていた。


「夏希さん、すっごく可愛かったんだよ。僕が夏希さんから手を離そうとすると『離しちゃやだ!』ってぎゅって僕の手を握り締めて……」と多少の脚色を加えて説明をすると、真っ赤になって慌てふためく。


今思い出してもとても可愛いかった。


昨夜訪れた数年ぶりの寒波で、今朝から外は一面の銀世界だ。
夏希さんのマンションの向かいの公園で雪玉をごろごろごろと転がしながら、彼女の帰りを待っている。


たかが雪遊び、雪ダルマ。
然し乍ら、夏希さんを驚かせようとあと少し、あと少しと転がしていたら等身大サイズのかなり大きな雪だるまになってしまった。


ここまできたら、更に完璧を目指してしまうのは、人の常だろう。



「このニンジン、使っちゃうか」



スーパーで買い出しをしてきた中からニンジンを引っ張り出して、鼻に見立てて突き刺した。
目には石ころ、下の胴体に木の枝を二本、その先に自分の手袋を嵌めさせたところで。



「要くん!!」

「夏希さん、おかえり」



帰って来た夏希さんに見つかった。
手招きすると、呆れた顔でさくさくと雪を踏みながら近寄ってくる。



「……なにやってんの」

「暇だし、冷えるから運動がてら雪だるま作ってた」

「ちょっと……私こんな本気の雪ダルマ初めて見たよ」

「夏希さんを驚かせたくて僕頑張ったもん。びっくりしたでしょ?」

「うん、びっくりした」

「やったね」



不意に夏希さんの手が僕の手に触れて、眉を顰められた。
確かに少し冷えたけれど、笑ってくれるならそれでいいのだ。

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