明け方の眠り姫
はあ、と二人分の手を取って口許に当て息を吹きかける。



「寒いね。夏希さん、今日は鍋にしようね」

「要くん、買い物してきたの?」

「うん。夏希さんと鍋つつきながら昼から雪見酒もいいなあって思って」



そう言うと、夏希さんは不意に、泣き笑いのような複雑な顔をちらりと見せた。



「こんなに冷たくなって……いつから待ってたのよ、馬鹿。鍋なんていつでもできるのに」

「だって夏希さん、ほっといたらカップ麺しか食べなさそうだし。僕見たよ、またストック買い込んでたでしょ」

「……いいじゃない、カップ麺でも。ラーメン好きなんだもん。早く帰ろ。私お腹空いた!」



その表情の変化には気づかないフリをして、他愛ない会話を続ける。
けれど、目尻に少し涙の粒を見つけてしまう。


見られたくないのか、彼女はすぐに顔を背けて先に立って歩き始めてしまったけれど。


今でも時々、優しくすればするほど彼女はそんな表情を見せる時がある。
その度僕は、己の不甲斐なさと同時に、少しの苛立ちも覚えてしまう。



―――……ねえ、要くん。一つお願いがあるんだけど



夏希さんの元を何度目かに訪れた日のことだ。
相変わらず目の下に隈を作った夏希さんが、堪り兼ねたように僕にお願いごとをした。

< 14 / 40 >

この作品をシェア

pagetop