明け方の眠り姫
―――……眠れないのよ、どうしても。私が眠るまででいいからあの時みたいにしててくれない?
僕が彼女の元を毎日訪れるようになった、理由の一つだ。
どうしても、眠れないのだという彼女に出来る限り毎日付き添い、手を握る。
眠りにつくまで。
ひとりでは、眠れない。
多分それだけ弱ってて、今もまだ結婚してしまったあの男のことを忘れられずにいるんだ。
今のところ、彼女にとっての僕の立ち位置は睡眠薬代わりと言ったところなんだろう。
「……夏希さん、見て。また降って来た」
先に立って歩く後ろ姿が無性に寂しくて、つい気を引くように呼び止めてしまう。
だけど、すぐに後悔した。
立ち止まった彼女に追いついて、隣に並んだ。
雪は彼女にとって、今はまだ胸に痛い思い出なのだと、空を見上げる横顔に思い知らされる。
何も聞かずに忘れるのを待とうと思うけれど、あの男への気持ちがちらちらと見え隠れするようで、僕にはそれが歯がゆくて。
「ほら、もう行こう? 今日は牡蠣鍋にしたよ。お酒が進みそうでしょ?」
打ち消すみたいに、彼女の背中に手を添えた。